・・・御糺明の喇叭さえ響き渡れば、「おん主、大いなる御威光、大いなる御威勢を以て天下り給い、土埃になりたる人々の色身を、もとの霊魂に併せてよみ返し給い、善人は天上の快楽を受け、また悪人は天狗と共に、地獄に堕ち」る事を信じている。殊に「御言葉の御聖・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・「なるほど造り変える力ですか? しかしそれはお前さんたちに、限った事ではないでしょう。どこの国でも、――たとえば希臘の神々と云われた、あの国にいる悪魔でも、――」「大いなるパンは死にました。いや、パンもいつかはまたよみ返るかも知れま・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・そしてその輝かしい微苦笑には、本来の素質に鍛錬を加えた、大いなる才人の強気しか見えない。更に又杯盤狼藉の間に、従容迫らない態度などは何とはなしに心憎いものがある。いつも人生を薔薇色の光りに仄めかそうとする浪曼主義。その誘惑を意識しつつ、しか・・・ 芥川竜之介 「久米正雄」
・・・ 小娘は釣をする人の持前の、大いなる、動かすべからざる真面目の態度を以て、屹然として立っている。そして魚を鉤から脱して、地に投げる。 魚は死ぬる。 湖水は日の光を浴びて、きらきらと輝いて、横わっている。柳の、日に蒸されて腐る水草・・・ 著:アルテンベルクペーター 訳:森鴎外 「釣」
・・・ 僧は大いなる口を開けて、また指した。その指で、かかる中にも袖で庇った、女房の胸をじりりとさしつつ、(児を呉 と聞いたと思うと、もう何にも知らなかった。 我に返って、良人の姿を一目見た時、ひしと取縋って、わなわなと震えたが、・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・今にはじめぬことながら、ほとんどわが国の上流社会全体の喜憂に関すべき、この大いなる責任を荷える身の、あたかも晩餐の筵に望みたるごとく、平然としてひややかなること、おそらく渠のごときはまれなるべし。助手三人と、立ち会いの医博士一人と、別に赤十・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・疾き流れの谿河を隔てて、大いなる巌洞あり。水の瀬激しければ、此方の岸より渡りゆくもの絶えてなし。一日里のもの通りがかりに、その巌穴の中に、色白く姿乱れたる女一人立てり。怪しと思いて立ち帰り人に語る。驚破とて、さそいつれ行きて見るに、女同じ処・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・省作はわれ自らもまた自然中の一物に加わり、その大いなる力に同化せられ、その力の一端がわが肉体にもわが精神にも通いきて、新たなる生命にいきかえったような思いである。おとよさんやおはまや、晴ればれと元気のよい、毛の先ほども憎気のない人たちと打ち・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・二葉亭が苦悶を以て一生を終ったに比較して渠らは大いなる幸福者である。 明治の文人中、国木田独歩君の生涯は面白かった。北村透谷君の一生もまた極めて興味がある。が、二葉亭の一生はこれらの二君に比べると更に一層意味のある近代的の悶えと艱みの歴・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・坪内君は明治の文学の大いなるエポック・メーカーである。 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
出典:青空文庫