・・・ 鬼神力が具体的に吾人の前に現顕する時は、三つ目小僧ともなり、大入道ともなり、一本脚傘の化物ともなる。世にいわゆる妖怪変化の類は、すべてこれ鬼神力の具体的現前に外ならぬ。 鬼神力が三つ目小僧となり、大入道となるように、また観音力の微・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・鼻も大きければ、口も大きい、額の黒子も大入道、眉をもじゃもじゃと動かして聞返す。 これがために、窶れた男は言渋って、「で、ございますから、どうぞ蝋燭はお点し下さいませんように。」「さようか。」 と、も一つ押被せたが、そのまま・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・ この声のみの変化は、大入道よりなお凄く、即ち形なくしてかえって形あるがごとき心地せらる。文章も三誦すべく、高き声にて、面白いぞ――は、遠野の声を東都に聞いて、転寝の夢を驚かさる。白望の山続きに離森と云う所あり。その小字に長・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・ 露路の長屋の赤い燈に、珍しく、大入道やら、五分刈やら、中にも小皿で禿なる影法師が動いて、ひそひそと声の漏れるのが、目を忍び、音を憚る出入りには、宗吉のために、むしろ僥倖だったのである。 八「何をするんですよ・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・ 赤ら顔の大入道の、首抜きの浴衣の尻を、七のずまで引めくったのが、苦り切ったる顔して、つかつかと、階を踏んで上った、金方か何ぞであろう、芝居もので。 肩をむずと取ると、「何だ、状は。小町や静じゃあるめえし、増長しやがるからだ。」・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・狸が化けたり、狐が化けたり、大入道が出ましたなんて、いうような、その事でございます。」「馬鹿な事を言っちゃ可かん、子供が大人になったり、嫁が姑になったりするより外、今時化けるって奴があるものか。」 と一言の許に笑って退けたが、小宮山・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ そこでまたこうも思った、何もそう固まるには及ばない、気になるならなるで、ちょっと見て烏か狐か盗賊か鬼か蛇かもしくは一つ目小僧か大入道かそれを確かめて、安心して画いたがよサそうなものだ、よろしいそうだと振り向こうとしたが、残念でたまらな・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・又打死はしたが、相国寺の戦に敵の総帥の山名宗全を脅かして、老体の大入道をして大汗をかいて悪戦させたのは安富喜四郎であった。それほど名の通った安富の家の元家が、管領細川政元を笠に被て出て来ても治まらなかったというのは、何で治まらなかった歟、納・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 林が尽きて、青い原を半丁と行かぬ所に、大入道の圭さんが空を仰いで立っている。蝙蝠傘は畳んだまま、帽子さえ、被らずに毬栗頭をぬっくと草から上へ突き出して地形を見廻している様子だ。「おうい。少し待ってくれ」「おうい。荒れて来たぞ。・・・ 夏目漱石 「二百十日」
出典:青空文庫