・・・ 大団円 甚太夫主従は宿を変えて、さらに兵衛をつけ狙った。が、その後四五日すると、甚太夫は突然真夜中から、烈しい吐瀉を催し出した。喜三郎は心配の余り、すぐにも医者を迎えたかったが、病人は大事の洩れるのを惧れて、どうし・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・そう何年も続けて夢を見ていた日にゃ、火星の芝居が初まらぬうちに、俺の方が腹を減らして目出度大団円になるじゃないか、俺だって青い壁の涯まで見たかったんだが、そのうちに目が覚めたから夢も覚めたんだ』・・・ 石川啄木 「火星の芝居」
・・・ この序曲からこの大団円に導く曲折した道程の間に、幾度となくこの同じラッパの単調なメロディと太鼓の単調なリズムが現われては消え、消えてはまた現われる。ラッパはむしろ添え物であって、太鼓の音の最も単純なリズムがこの一編のライトモチーフであ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうして大団円における池田君の運命の暗雲を地平線上にのぞかせるのである。そこへおあつらえ通り例の夕刊売りが通りかかって、それでもう大体の道具立ては出来たようなものである。これでこの芝居は打出してもすむ訳である。 それではしかし見物の多数・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・そうして結局の大団円なりエピローグが来る。そういう形式がかなりはっきりしているのが目につく。 映画のタイトルに相当する詞書の長短の分布もいろいろ変化があって面白く、この点も研究に値いする。 二つのクライマックスの虐殺の場がかなり分析・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
・・・食糧を貯蔵しなかった怠け者の蟋蟀が木枯しの夜に死んで行くというのが大団円であったが、擬音の淋しい風音に交じって、かすかなバイオリンの哀音を聞かせるのが割に綺麗に聞きとれるので、これくらいならと思って安心したのであった。 色々な種類の放送・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・その場はそれで済みまして、いよいよ細君を連れて宅へ帰って見ますと、貝の利目はたちまちあらわれて、細君はその月から懐妊して、玉のような男子か女子か知りませんが生み落して老人は大満足を表すると云うのが大団円であります。ゾラ君は何を考えてこの著作・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 現代、明るさの真実な姿を芸術に描き出すことは決してやさしいことではなく、事件の目出度い大団円がとりも直さぬ明るさとして納得されにくい例は、別な場合であるが徳永直氏の「はたらく人々」の後半のまとめかたにも見られる。明日への課題として、芸・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・のようにプチ・ショウズのように、主人公たち人間の内面的発展の欲望の自覚や、それと相剋するものとしての環境の本質の自覚が見られてはいない。従って、女の子を主人公としたそれぞれの物語は「セーラ・クルー」の大団円にしろ、「あしながおじさん」にしろ・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
出典:青空文庫