・・・歳暮大売出しの楽隊の音、目まぐるしい仁丹の広告電燈、クリスマスを祝う杉の葉の飾、蜘蛛手に張った万国国旗、飾窓の中のサンタ・クロス、露店に並んだ絵葉書や日暦――すべてのものがお君さんの眼には、壮大な恋愛の歓喜をうたいながら、世界のはてまでも燦・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・ 空には軽気球がうかんでいて、百貨店の大売出しの広告文字がぶらさがっていた。とぼとぼ河堀口へ帰って行く道、紙芝居屋が、自転車の前に子供を集めているのを見ると、ふと立ち停って、ぼんやり聴いていたくらい、その日の私は途方に暮れていました。と・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・私は歳暮大売出しと大きな門をつくった内の三省堂に本をかいによった。私はしかたがなくて彼の手をはなした。まさか本屋にまで手を引いて入れないから。本を見ている間に彼はもう唐物店の飾まどの前にすいつけられて居た。私は袖を引っぱって又手をつかまえた・・・ 宮本百合子 「心配」
・・・ よく見世物の小屋に立って居る様な幟りに「歳暮大売出し」「大々的すて売り」「上等舶来、手袋有」などと書いたのがバタバタ云って居る。東京で歳暮の町を歩いて一番目につく羽子板等はあんまり飾ってなく、あれば色取った紙を板にはりつけた二三銭のか・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・家具大売出し! 十八ヵ月月賦!「キリストは生きている!」教会だ。「質」「古着」 高い建物と建物との隙間に引込んで煤けきった大鉄骨が見えた。黒い、日のささぬ鉄骨の間に白いものを着た子供が動いていた。工場裏に似たそれは皇后児・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫