・・・わたしは兎が大好きなのですから。(使の兎の耳を玩弄もっとこっちへいらっしゃい。何だかわたしはあなたのためなら、死んでも好いような気がしますよ。 使 (小町を抱ほんとうですか? 小町 ほんとうならば? 使 こうするのです。(接吻・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・クララはそんな時には大好きな母の顔さえ見る事を嫌った。ましてや父の顔は野獣のように見えた。いまに誰れか来て私を助けてくれる。堂母の壁画にあるような天国に連れて行ってくれるからいいとそう思った。色々な宗教画がある度に自分の行きたい所は何所だろ・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・僕のしたことを誰も気のついた様子がないので、気味が悪いような、安心したような心持ちでいました。僕の大好きな若い女の先生の仰ることなんかは耳に這入りは這入ってもなんのことだかちっともわかりませんでした。先生も時々不思議そうに僕の方を見ているよ・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・ついでに、いまののありそうな処へ案内して、一つでも二つでも取らして下さい、……私は茸狩が大好き。――」と言って、言ううちに我ながら思入って、感激した。 はかない恋の思出がある。 もう疾に、余所の歴きとした奥方だが、その私より年上・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・――私は大好きだ。スズメノエンドウ、スズメウリ、スズメノヒエ、姫百合、姫萩、姫紫苑、姫菊のろうたけた称に対して、スズメの名のつく一列の雑草の中に、このごんごんごまを、私はひそかに「スズメの蝋燭」と称して、内々贔屓でいる。 分けて、盂蘭盆・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・「ほほほほ、そのせいだか、精進男で、慈姑の焼いたのが大好きで、よく内へ来て頬張ったんだって……お母さんたら。」「ああ、情ない。慈姑とは何事です。おなじ発心をしたにしても、これが鰌だと引導を渡す処だが、これじゃ、お念仏を唱えるばかりだ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・当家のお母堂様も御存じじゃった、親仁こういう事が大好きじゃ、平に一番遣らせてくれ。村越 かえってお心任せが可いでしょう。しかし、ちょうど使のものもあります、お恥かしい御膳ですが、あとから持たせて差上げます。撫子 あの、赤の御飯を添え・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・「おらアおとよさん大好きさ。あの人は村の若い女のよい手本だ。おとよさんは仕事姿がえいからそれがえいのだ。おらアもう長着で羽織など引っ掛けてぶらぶらするのは大きらいだ。染めぬいた紺の絣に友禅の帯などを惜しげもなくしめてきりっと締まった、あ・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・「僕大好きさ」 民子はこれからはあなたが先になってと云いながら、自らは後になった。今の偶然に起った簡単な問答は、お互の胸に強く有意味に感じた。民子もそう思った事はその素振りで解る。ここまで話が迫ると、もうその先を言い出すことは出来な・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・「拵えようが違うのか、僕はこういうもの大好きだ。大いに頂戴しよう」「余所のは米の粉を練ってそれを程よく笹に包むのだけれど、是は米を直ぐに笹に包んで蒸すのだから、笹をとるとこんな風に、東京のお萩と云ったようだよ」「ウム面白いな、こ・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
出典:青空文庫