・・・カナリヤ、錦鶏鳥、蜂雀、――美しい大小の剥製の鳥は硝子越しに彼を眺めている。三重子もこう言う鳥のように形骸だけを残したまま、魂の美しさを失ってしまった。彼ははっきり覚えている。三重子はこの前会った時にはチュウイン・ガムばかりしゃぶっていた。・・・ 芥川竜之介 「早春」
舎衛城は人口の多い都である。が、城の面積は人口の多い割に広くはない。従ってまた厠溷も多くはない。城中の人々はそのためにたいていはわざわざ城外へ出、大小便をすることに定めている。ただ波羅門や刹帝利だけは便器の中に用を足し、特・・・ 芥川竜之介 「尼提」
・・・三年経った後には彼れは農場一の大小作だった。五年の後には小さいながら一箇の独立した農民だった。十年目にはかなり広い農場を譲り受けていた。その時彼れは三十七だった。帽子を被って二重マントを着た、護謨長靴ばきの彼れの姿が、自分ながら小恥しいよう・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・人によりて強弱あり、大小はあるが、この慾望の最も熾んな者はすなわち天才である。天才とは畢竟創造力の意にほかならぬ。世界の歴史はようするに、この自主創造の猛烈な個人的慾望の、変化極りなき消長を語るものであるのだ。嘘と思うなら、かりにいっさいの・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・お人形をあつかえばって、屏風を立てて、友染の掻巻でおねんねさせたり、枕を二つならべたり、だったけれど、京千代と来たら、玉乗りに凝ってるから、片端から、姉様も殿様も、紅い糸や、太白で、ちょっとかがって、大小護謨毬にのッけて、ジャズ騒ぎさ、――・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・樹から湧こうが、葉から降ろうが、四人の赤い子供を連れた、その意匠、右の趣向の、ちんどん屋……と奥筋でも称うるかどうかは知らない、一種広告隊の、林道を穿って、赤五点、赤長短、赤大小、点々として顕われたものであろう、と思ったと言うのである。・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・また敵の砲塁までまだどれほどあるかて、音響測量をやって見たら、たッた二百五十メートルほかなかった。大小の敵弾は矢ッ張り雨の如く降っとった。その間を平気で進んで来たものがあるやないか? たッた独りやに「沈着にせい、沈着にせい」と云うて命令しと・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・ 丹造は新聞広告には金目を惜しまず、全国大小五十の新聞を利用して、さかんに広告を行った。一頁大の川那子メジシンの広告がどこかの新聞に出ていない日は一日としてなかったくらいだ。しかも、単に尨大であるばかりでなく、そのあくどさに於いて、古今・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・物を読むと眼が悪くなる、電車の中や薄暗いところで読むと眼にいけない、活字のちいさな書物を読むと近眼になるなどと言われて、近頃岩波文庫の活字が大きくなったりするけれど、この人達は電車の中でも読み、活字の大小を言わず、無類の多読を一生の仕事のよ・・・ 織田作之助 「僕の読書法」
・・・』という声が自分のすぐ前でしたと思うと自分とすれ違って、一人の男がよろめきながら『腰の大小伊達にゃあささぬ、生意気なことをぬかすと首がないぞ!』と言って『あははははッ』と笑ッた。自分は驚いて、振り向いて見ると、霧をこめておぼろな電気燈の光が・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
出典:青空文庫