・・・学位を取った日から勉強をやめてしまうような現金な学者が幾人かはあるとしても、それは大局の上から見ればそう重大な問題ではないであろう。少なくもその日まで勉強したことはまるで何もしなかったよりはやはりそれだけの貢献にはなっており、その日から止め・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・事実の大局から云えば活力を吾好むところに消費するというこの工夫精神は二六時中休みっこなく働いて、休みっこなく発展しています。元々社会があればこそ義務的の行動を余儀なくされる人間も放り出しておけばどこまでも自我本位に立脚するのは当然だから自分・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ 若い一組が働きながら夫婦の生活感情を成長させてゆくためには、お互に大局からの仕事についての理解が、非常に深くなければなりません。互の忍耐もいり、我ままを愛の表現と思わない決心がいる――「スタイル」の愛の技巧とは全くちがった聰明がいりま・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ことに日本は、職業婦人、労働婦人が発生してからの歴史が浅い上に、自然発生的でどちらかというと労働市場へずるずると入って来ているために、男女相互に、働くものとしての大局から損をしあっている場合が決してすくなくないのである。 たとえば賃銀に・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・小船は、一つ一つの波にはゆられているが大局からみればちゃんと一定の方向で波全体を漕ぎわけてゆく。そのようにわたしたちは、起伏する社会現象をはげしく身にうけながら、そこからさまざまの感想と批判と疑問とをとり出しつつ、人間らしい人生を求める航路・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・ 画家の本道的な業績を、大局からみてこの新しい関係が高めたか、或は通俗に堕す部分を生ぜしめたかということは簡単に云い得ないけれども、文学についてみれば、或る作家たちが目下器用にこなしているこの両刀使いの方法は、少くとも、作家と読者との関・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・まんじ巴と男女の性がいりみだれ、どんな姿態が展開されたにしても、大局からみれば、文学に渦まくそのまんじ巴そのものが、日本の悲劇と無方向を語るものでしかない。D・H・ローレンスの作品のあるものは、一九三〇年代のはじめごろ、日本に翻訳された。三・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・まして、大局ではマイナスの作用をしつつ、目前ともかくプラスである協力者をもたず、或は良人と自身との画境をはっきり弁えて自力の成熟をしようと心がけている若い少数の婦人画家たちは、現在の常識ではどっちを向いても損であり苦しいということになる。・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ 集団農場化は、大局から見て、都会の工業に対する農村のこれまでの植民地関係を止揚するばかりではない。一人一人の貧農・中農の直接の利害から云って集団農場に加入する方がずっと割がいいことを明らかにした。 五ヵ年計画で、ソヴェト農民の一人・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そして、読者としての作家・評論家を大局的に云えば決してその例外に置かれているのではないのである。みんなの分らないことは、作家・評論家にしても大してより多く分っているのではない実際であるとして、そのような状況から生れて来る作品が、それではその・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
出典:青空文庫