・・・すると叔母は大息をついて、しばらくは口もきけないのか、ただ何度となく恐ろしそうに頷くばかりでございましたが、やがてまた震え声で、『見たともの、見たともの、金色の爪ばかり閃かいた、一面にまっ黒な竜神じゃろが。』と答えるのでございます。して見ま・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・ 喫驚仰天はこれのみならず、蝙蝠がすッと来て小宮山の懐へ、ふわりと入りましたので、再びあッと云って飛び上ると同時に、心付きましたのは、旧の柏屋の座敷に寝ていたのでありまする。 大息を吐いて、蒲団の上へ起上った、小宮山は、自分の体か、・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・大連でみんなが背嚢を調べられましたときも、銀の簪が出たり、女の着物が出たりして恥を掻く中で、わたくしだけは大息張でござりました。あの金州の鶏なんぞは、ちゃんが、ほい、又お叱を受け損う処でござりました、支那人が逃げた跡に、卵を抱いていたので、・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫