・・・兄は、前からずっとこの土地にいたのだから、あのひとは、べつだけれども、あたしは父とふたりで東京へ出て、大戦がはじまる前だってちっとも楽じゃ無かったし、いよいよ大戦がはじまって、あたしも父の工場に出て職工さんたちと一緒に働くようになった頃から・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・島田の小説がこの数年来ちっとも発表されなくなったのも、この大戦で、小説家たちも軍需工場か何かに進出して行かざるを得なくなったからだろうくらいに考えていました。しかし、新作の小説が出なくても、私の手許には、以前の島田の本が何冊も残っています。・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・私たちはこの大戦争に於いて、日本に味方した。私たちは日本を愛している、と。 そうして、日本は大敗北を喫しました。まったく、あんな有様でしかもなお日本が勝ったら、日本は神の国ではなくて、魔の国でしょう。あれでもし勝ったら、私は今ほど日本を・・・ 太宰治 「返事」
・・・ 細田氏は、大戦の前は、愛国悲詩、とでもいったような、おそろしくあまい詩を書いて売ったり、またドイツ語も、すこし出来るらしく、ハイネの詩など訳して売ったり、また女学校の臨時雇いの教師になったりして、甚だ漠然たる生活をしていた人物であった・・・ 太宰治 「女神」
・・・一九一一年にはプラーグの正教授に招聘され、一九一二年に再びチューリヒのポリテキニクムの教授となった。大戦の始まった一九一四年の春ベルリンに移ってそこで仕事を大成したのである。 ベルリン大学にける彼の聴講生の数は従来のレコードを破っている・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・そういう場合のあることは昔からも知られていたであろうが、それが欧州大戦以後、特に外科医の方で注意され問題にされ研究されて、今日では一つの新療法として、特殊な外科的結核症や真珠工病などというものの治療に使う人が出てきた。こうなると今度は、それ・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・「大戦」と、ルパートのいわゆる「戦いはこれから始まるのだ」のその「戦い」との間に、この楽しい球技の戦いが挿入されている。そうして球技場の眩しい日照の下に、人知れず悩む思いを秘めた白衣のヒロインの姿が描出されるのである。 つまらない事では・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・ 現今大戦の影響であらゆる科学は応用の方面に徴発されている。応用方面の刺戟で科学の進歩する事は日常の事であるから、このために科学が各方面に進歩する事は疑いを容れない。これは誠に喜ぶべき事である。しかしその半面の随伴現象としていわゆる骨董・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・電燈でも、飛行機でも、潜水艇でもまたタンク戦車のごときものすら欧州大戦よりずっと以前に小説家によって予想されている。市井の流行風俗、生活状態のようなものはもちろん、いろいろな時代思潮のごときものでも、すぐれた作者の鋭利な直観の力で未然に洞察・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 二 二千年前に電波通信法があった話 欧洲大戦の正に酣なる頃、アメリカのイリノイス大学の先生方が寄り集まって古代ギリシアの兵法書の翻訳を始めた。その訳は、人間の頭で考え得られる大概の事は昔のギリシア人が考えてしまっ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
出典:青空文庫