・・・なんらかの素因で等しく世に敗れ、廃人よ、背徳者よとゆび指され、そうしてかれより貧しい人たちは、水の低きにつくが如く、大挙してかれの身のまわりにへばりついた。そうして、この男に、男爵という軽蔑を含めた愛称を与えて、この男の住家をかれらの唯一の・・・ 太宰治 「花燭」
・・・げ、ついに旧政府を倒して新政府を立てたるその際に、最初はおのおのその藩主の名をもってしたりといえども、事成るの後にいたり、藩主は革命の名利にあずかるを得ずして、功名利禄は藩士族の流に帰し、ついで廃藩の大挙にあえば、藩主は得るところなきのみな・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・氏が政治上の死にして、たといその肉体の身は死せざるも最早政治上に再生すべからざるものと観念して唯一身を慎み、一は以て同行戦死者の霊を弔してまたその遺族の人々の不幸不平を慰め、また一には凡そ何事に限らず大挙してその首領の地位に在る者は、成敗共・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・丸の内、海上ビルディング内だけでも死者数万人の見込み、東京市三分の二は全滅、加えて〔四字伏字〕、〔五字伏字〕が大挙して暴動を起し、爆弾を投じて、全市を火の海と化しつつあると、報じてある。そのどさくさ紛れに、〔四字伏字〕の噂さえ伝えられている・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫