・・・を被った大時代や、「あづまからげ」に草履ばき、「引裂き紙で後ぐくり」なんという古めかしい事は夢に見ようといっても見られなくなり行きまして、母が真中で子供を左右にした「三宝荒神」などは浮世絵で見るほかには絵に見る事も無くなりましょう。で、万事・・・ 幸田露伴 「旅行の今昔」
・・・私は自身の大時代なせりふとみぶりにやや満足していた。誰かとめて呉れ。 百姓は、もそもそと犬の毛皮の胴着を脱ぎ、それを私に煙草をめぐんで呉れた美人の女給に手渡して、それから懐のなかへ片手をいれた。 ――汚い真似をするな。 私は身構・・・ 太宰治 「逆行」
・・・どうも古い。大時代だ。」詩人は、美濃の此のような多少の文才も愛しているし、また、こんな物語を独りでこっそり書いている美濃の身の上を、不憫にも思うのだが、けれども、美濃のこんどの無法な新手の恋愛には、わざと気づかぬ振りをしていようと思った。「・・・ 太宰治 「古典風」
・・・ ――山よりほかに、…… なぞという大時代的なばかな感慨にふけって、かすかに涙ぐんだりなんかして、ひどく、だらしない。しばらく、口あいて八が岳を見上げていて、そのうちに笠井さんも、どうやら自身のだらけ加減に気がついた様子で、独りで、・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・家全体は異様に大時代で、目を瞠らせる。そして道を距てた前に民芸館と称する、同スタイルの大建築がまるで戦国時代の城のように建ちかけている。木食上人、ブレーク、アルトの歌手。それとこの家! 実にびっくりして凄いような気がしました。Yの父は三井の・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・一大時代であった。工業が発達し、商業が自由になり「ナポレオンによって全ヨーロッパに及ぼされた国富の新しい配分が、特にフランスにおいてその実を結びはじめ」ると同時に、大革命時代に「没収されていた教会僧院の財産は勿論、或は分割され、或は競売に附・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫