・・・ この席におられる大森教授は私と同年かまたは前後して大学を出られた方ですが、その大森さんが、かつて私にどうも近頃の生徒は自分の講義をよく聴かないで困る、どうも真面目が足りないで不都合だというような事を云われた事があります。その評はこの学・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ 鯰か、それとも大森博士か、一体手前は何だ。 ――俺は看守長だ。 ――面白い。 私はそこで窓から扉の方へ行って、赤く染った手拭で巻いた足を、食事窓から突き出した。 ――手前は看守長だと言うんなら、手前は言った言葉に対して責任・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・ 未だお昼前だのに来る人の有ろう筈もなしと思うと昨日大森の家へ行って仕舞ったK子が居て呉れたらと云う気持が一杯になる。 いつ呼んでも来て呉れる心安い、明けっぱなしで居られる友達の有難味を、離れるとしみじみと感じる。 彼の人が来れ・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・ 今日作家が一般的に、こういう面でのみ闊達であり得るということについては、慶賀すべきか、或は憤ってしかるべきことなのであろうか。 大森義太郎氏の「思想と生活」には、「麦死なず」に対する批判的感想として、正しい思想はよしんば各個人の実・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・ 稲子さんは一九三二年の夏は大森の実家が長崎へ引上げた後の家に生れたばかりの達枝と健造、七十を越したおばあさんを引つれて住み、秋、戸塚の方へ引越して来たのであった。大森の家へ行ったにしろ、それは実家の父親が発狂して職についていられなくな・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・ 作品の欠点や、チャチなところだけをつまみだして、パンパンパンと平手うちにやっつける批評ぶりは、本当のプロレタリア的批評ではない。溜飲はさがるかもしれないが弁証法的でないし、建設的でない。 大森義太郎氏の文学作品批評はきびきびしてい・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・かえりには大森の沢田屋でカニをたべ、賑やかなのにびっくり致しました。十国峠の入口はこのエハガキのようになっていて、八十銭とります。ゴーラの方は一円五十銭を橋銭のようにとる。そこでこのハガキを買い、スタンプを押させました。芝居がかって可笑しい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・被検挙者中には、大森義太郎、向坂逸郎、猪俣津南雄、山川均、荒畑寒村等の諸氏がある。末次内務大臣は、大学専門学校等の周囲三百米から喫茶店、ビリヤード、マージャン等の店を撤廃するように命じ、従来の自由主義的な学生の取締方法を変更するべきことをす・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・に文学的反撥を示したその前進的な方向がおのずから語っているようにプロレタリア文学の時期を経過した後の見解に立っているために、その方向に対してこのグループが示した一つの明瞭な限界に対して下される大森義太郎などの批判に対しても闘わなければならな・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・課長は数日前に更迭したばかりとのことで、事務官が会う。大森義太郎の場合を例にとって、何故彼の映画時評までを禁じたかという、今日における検閲の基準を説明した。それによると、例えば大森氏はその時評の中に、日本の映画理論はまだ出来ていない、しかし・・・ 宮本百合子 「一九三七年十二月二十七日の警保局図書課のジャーナリストとの懇談会の結果」
出典:青空文庫