・・・第二義から第一義に行って霊も肉も無い……文学が高尚でも何でも無くなる境涯に入れば偖てどうなるかと云うに、それは私だけにゃ大概の見当は付いているようにも思われるが、ま、ま、殆ど想像が出来んと云って可いな。――ただ何だか遠方の地平線に薄ぼんやり・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・菓物は凡て熟するものであるから、それをくさるといったのである。大概の菓物はくだものに違いないが、栗、椎の実、胡桃、団栗などいうものは、くだものとはいえないだろう。さらばこれらのものを総称して何というかといえば、木の実というのである。木の実と・・・ 正岡子規 「くだもの」
紀行文をどう書いたら善いかという事は紀行の目的によって違う。しかし大概な紀行は純粋の美文的に書くものでなくてもやはり出来るだけ面白く書こうとする即美文的に書こうとする、故に先ず面白く書くという事はその紀行全部の目的でなくても少くも目的・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・ 現実は豊饒、強靭であって、作家がそれに皮肉さをもって対しても、一応の揶揄をもって対しても、大概は痛烈な現実への肉迫とならず、たかだか一作家のポーズと成り終る場合が非常に多い。作家は、現実に向って飽くまで探求的であり、生のままの感受性を・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ 最近二三、顔を出しましたけれど、私は余り会合などに出る方ではありません。大概どこの会でも男の方と、女の方とがすっかり別々にかたまり合ってお話していて、そのどちらかへ一人でも男の方か、女の方かが入ってくると、妙に取澄ましてしまうという風・・・ 宮本百合子 「十年の思い出」
・・・と云って、木村の顔を見て、「君は大概知っているだろう」と言い足した。 木村は少しうるさいと思ったらしく顔を蹙めたが、直ぐ思い直した様子でこう云った。「そう。僕だって別に研究したのではありませんが、近代思想の支流ですから、あらまし知ってい・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・費用も大概出来たので、近いうちに北川という若い医学士に跡を譲って、出発すると云っている。富田院長も四十は越しているが、まだ五分刈頭に白い筋も交らない。酒好だということが一寸見ても知れる、太った赭顔の男である。 極澹泊な独身生活をしている・・・ 森鴎外 「独身」
上 この武蔵野は時代物語ゆえ、まだ例はないが、その中の人物の言葉をば一種の体で書いた。この風の言葉は慶長ごろの俗語に足利ごろの俗語とを交ぜたものゆえ大概その時代には相応しているだろう。 ああ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・いらっしゃれば大概二週間位は遊興をお尽しなさって、その間は、常に寂そりしてる市中が大そう賑になるんです。お帰りのあとはいつも火の消たようですが、この時の事は、村のものの一年中の話の種になって、あの時はドウであった、コウであったのと雑談が、始・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・今の青年教育は大概この弊に陥っています。ただ、性格のしっかりした青年は、反抗心によってこの教育の害悪から救われているのです。 私は右の二つの態度のいずれをも肯定し、いずれをも否定しました。ではどうしろというのか。私はこのことについて一つ・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫