・・・僕はかなり逐語的にその報告を訳しておきましたから、下に大略を掲げることにしましょう。ただし括弧の中にあるのは僕自身の加えた註釈なのです。―― 詩人トック君の幽霊に関する報告。 わが心霊学協会は先般自殺したる詩人トック君の旧居にして現・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・とは如何なるものか、彼は過去において、如何なる歴史を持っているか、こう云う点に関しては、如上で、その大略を明にし得た事と思う。が、それを伝えるのみが、決して自分の目的ではない。自分は、この伝説的な人物に関して、嘗て自分が懐いていた二つの疑問・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・これは治修の事を処する面目の一端を語っているから、大略を下に抜き書して見よう。「ある時石川郡市川村の青田へ丹頂の鶴群れ下れるよし、御鳥見役より御鷹部屋へ御注進になり、若年寄より直接言上に及びければ、上様には御満悦に思召され、翌朝卯の刻御・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・鼠色の雲の中へ、すっきり浮出したように、薄化粧の艶な姿で、電車の中から、颯と硝子戸を抜けて、運転手台に顕われた、若い女の扮装と持物で、大略その日の天気模様が察しられる。 日中は梅の香も女の袖も、ほんのりと暖かく、襟巻ではちと逆上せるくら・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・れ知らずこの女に気が置かれ相談できず、独りで二日三日商売もやめて考えた末、いよいよ明日の朝早く広島へ向けて立つに決めはしたものの餅屋の者にまるっきり黙ってゆく訳にゆかず、今宵こそ幸衛門にもお絹お常にも大略話して止めても止まらぬ覚悟を見せん、・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・この詩の意味は大略左のごとくである。 五年は経過せり。しかしてわれ今再びこの河畔に立ってその泉流の咽ぶを聴き、その危厳のそびゆるを仰ぎ、その蒼天の地に垂れて静かなるを観るなり。日は来たりぬ、われ再びこの暗く繁れる無花果の樹陰に座して・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・ 寄附金といわれて我知らずどきまぎしたが「大略集まった」と僅に答えて直ぐ傍を向いた。「廻る所があるなら僕廻っても可いよ」「難有う」と言ったぎり自分が躊躇しているので斎藤は不審そうに自分を見ていたが、「イヤ失敬」と言って去って終っ・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ まずこれを今の武蔵野の秋の発端として、自分は冬の終わるころまでの日記を左に並べて、変化の大略と光景の要素とを示しておかんと思う。九月十九日――「朝、空曇り風死す、冷霧寒露、虫声しげし、天地の心なお目さめぬがごとし」同二十一日―・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・何様も十分調べて置いてシツッコク文字論をするので講者は大に窘められたのでしたが、余り窘められたのでやがて昂然として難者に対って、「僕は読書ただ其の大略を領すれば足りるので、句読訓詁の事などはどうでもよいと思って居る」など互に鎬を削ったもので・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・私には成算ございましたので、二、三日、様子を見て、それから貴方へ御寄稿のお礼かたがた、このたびの事件のてんまつ大略申し述べようと思って居りましたところ、かれら意外にも、けさ、編輯主任たる私には一言の挨拶もなく、書留郵便にて、玉稿御返送敢行い・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫