・・・といいながら懐から折木に包んだ大福を取出して、その一つをぐちゃぐちゃに押しつぶして息気のつまるほど妻の口にあてがっていた。 から風の幾日も吹きぬいた挙句に雲が青空をかき乱しはじめた。霙と日の光とが追いつ追われつ・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ とまた大欠伸をして、むらむらと白い息を吹出すと、筒抜けた大声で、「大福が食いてえなッ。」 六「大福餅が食べたいとさ、は、は、は、」 と直きその傍に店を出した、二分心の下で手許暗く、小楊枝を削っていた・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・引用された大福長者の言葉は現代の百万長者でもおそらく云うことであろうし、金持になりたい人々の参考すべき「何とか押切帖」の類であろうが、またこれに対する著者の評は、金のたまらぬ人間の安心立命の考え方を示すものである。 酒飲む人のだらしのな・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・私は坐ってジッとして居ると目の前に広重の絵のような駅の様子や馬方の大福をかじって戻る茶店なんかがひろがって行く。さしあたって行くところもないんだしするから、女の身でやたらに行きたがったってしようがないって云うことは知って居る。けれども、あの・・・ 宮本百合子 「日記」
出典:青空文庫