・・・ 朝からの風が雨になって大粒なのがポトーリポトーリと落ちて来た。 若い職人は主婦から注意されるまで意地の強い顔をして座って居る。「玄関の土間へ行って御仕よ、 床を濡されたら仕様がないから。 わきに居る書生に大きな・・・ 宮本百合子 「通り雨」
・・・今日は雲の切れめこそ見えるが、急に吹き降りの大粒な雨が落ちる。けれども、今日引こもっては、もう大浦、浦上の天主堂も見ずに仕舞わねばならない。其は残念だ。Y、天を睨み「これだから貧棒旅行はいやさ」と歎じるが、やむを得ず。自動車をよんで・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・思い出したように大粒な雨が風と一緒に横なぐりにかかる。 Y、「――だから、貧乏旅行はいやさ」 苦笑せざるを得ない。自動車で大浦天主堂に行く。松ケ枝川を渡った山手よりの狭い通りで車を下り、堂前のだらだら坂を登って行く。右手に番小屋・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 今朝も、鼻の頭に大粒な汗をびっしょりかいて、大忙がしに働いていながら、どういうわけかおばあさんの頭からは、どうしても禰宜様宮田のことが、離れない。「妙な男だわえ……貧乏人の分際で……金……何にしろ遣ろうと云うのは金なんだから!」・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・果して、午後四時頃から天気が変り、烈しい東南風が吹き始めた。大粒な雨さえ、バラバラとかかって来る。夜になると、月のない闇空に、黒い入道雲が走り、白山山脈の彼方で、真赤な稲妻の閃くのが見えた。 夜中に、二度ばかり、可なり強い地震で眼を醒さ・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫