・・・れなくなって、今までの間、甲州の山続き白雲という峰に閉籠って、人足の絶えた処で、行い澄して、影も形もないものと自由自在に談が出来るようになった、実に希代な予言者だと、その山の形容などというものはまるで大薩摩のように書きました。 その鼻が・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・傘を拡げて大きく肩にかけたのが、伊達に行届いた姿見よがしに、大薩摩で押して行くと、すぼめて、軽く手に提げたのは、しょんぼり濡れたも好いものを、と小唄で澄まして来る。皆足どりの、忙しそうに見えないのが、水を打った花道で、何となく春らしい。・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・同時に擬古派の歌舞伎座において、大薩摩を聞く事を喜ぶのは、古きものの中にも知らず知らず浸み込んだ新しい病毒に、遠からず古きもの全体が腐って倒れてしまいそうな、その遣瀬ない無常の真理を悟り得るがためである。思えばかえって不思議にも、今日という・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫