・・・ 窓の外では屋根瓦に、滝の落ちるような音がしていた。大降りだな、――慎太郎はそう思いながら、早速寝間着を着換えにかかった。すると帯を解いていたお絹が、やや皮肉に彼へ声をかけた。「慎ちゃん。お早う。」「お早う、お母さんは?」「・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・千枝子はとうとう傘もささずに、大降りの雨を浴びながら、夢のように停車場を逃げ出して来た。――勿論こう云う千枝子の話は、あいつの神経のせいに違いないが、その時風邪を引いたのだろう。翌日からかれこれ三日ばかりは、ずっと高い熱が続いて、「あなた、・・・ 芥川竜之介 「妙な話」
・・・夜の八時ごろ、私はいつものようにお幸のもとに参りますと、この晩は宵から天気模様が怪しかったのが十時ごろには降りだして参りました。大降りにならぬうち、帰ろうと言い出しますと、お幸と武の女房が止めて帰しません、武は不在でございましたが、今に帰る・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・ 暫くすると雷が鳴って、大降りになった。雨が窓にぶっ附かって、恐ろしい音をさせる。部屋中のものが、皆為事を置いて、窓の方を見る。木村の右隣の山田と云う男が云った。「むしむしすると思ったら、とうとう夕立が来ましたな。」「そうですね・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫