・・・それでも一時は火が燃えるの人を呼ぶ声が聞えるのって、ずいぶん大騒ぎをしたもんですよ。」「じゃ別段その女は人を嚇かす気で来ていたんじゃないの?」「ええ、ただ毎晩十二時前後にながらみ取りの墓の前へ来ちゃ、ぼんやり立っていただけなんです。・・・ 芥川竜之介 「海のほとり」
・・・これを見た恵印法師はまさかあの建札を立てたばかりで、これほどの大騒ぎが始まろうとは夢にも思わずに居りましたから、さも呆れ返ったように叔母の尼の方をふり向きますと、『いやはや、飛んでもない人出でござるな。』と情けない声で申したきり、さすがに今・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・いまにみんながあなたの画を認めて大騒ぎする時が来てよ。そうして堂脇さんとやらが、美しいお嬢さんをもらってくださいって、先方から頭をさげてくるかもしれないわ。けれどもあんまり浮気をしちゃいけなくってよ。瀬古さん……あなた若様ね。きさくで親切で・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ ふと僕の眼の前に僕のおとうさんとおかあさんとが寝衣のままで、眼を泣きはらしながら、大騒ぎをして僕の名を呼びながら探しものをしていらっしゃいます。それを見ると僕は悲しさと嬉しさとが一緒になって、いきなり飛びつこうとしましたが、やはりおと・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
・・・「まあどうしたというのでございますか、抽斗にお了いなすったのは私もその時見ておりましたのに、こりゃ聞いてさえ吃驚いたしますものお邸では大騒ぎ。女などは髪切の化物が飛び込んだように上を下、くるくる舞うやらぶつかるやら、お米なども蒼くなって・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・おはまがもしおとよさんのしぐさを知ったら大騒ぎであったろうけれど、とうとうおはまはそれを知らなかった。おはまばかりでない、だれも知らなかったらしい。「今日ぐらい刈れば省作も一人前だなア」 これが姉のほめことばで見ても知られる。のっそ・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・隣村の祭で花火や飾物があるからとの事で、例の向うのお浜や隣のお仙等が大騒ぎして見にゆくというに、内のものらまで民さんも一所に行って見てきたらと云うても、民子は母の病気を言い前にして行かない。僕も余りそんな所へ出るは嫌であったから家に居る。民・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・と、川の中の魚は、みんな大騒ぎをしました。「まあ、なんというりっぱさでしょう。しかし、子供らが、うっかりこの花をのまなければいいが。」と、大きな魚は心配していました。 花は、水の上に浮かんで、流れ流れてゆきました。しかし、後から、後・・・ 小川未明 「赤い魚と子供」
・・・ あとで、みんな大騒ぎをしました。氷がとつぜん二つに割れて、しかもそれが、箭を射るように沖の方へ流れていってしまうことは、めったにあるものでない。こんな不思議なことは、見たことがない。それにしても、あの氷といっしょに流されてどこかへいっ・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・あれはいつだったっけ、何でも俺が船へ乗り込む二三日前だった、お前のところへ暇乞いに行ったら、お前の父が恐ろしく景気つけてくれて、そら、白痘痕のある何とかいう清元の師匠が来るやら、夜一夜大騒ぎをやらかしたあげく、父がしまいにステテコを踊り出し・・・ 小栗風葉 「深川女房」
出典:青空文庫