・・・ 蟻の巣を突きくずすと大騒ぎが始まる。しばらくすると復興事業が始まって、いつのまにかもとのように立派な都市ができる。もう一ぺん突きくずしてもまた同様である。蟻にはそうするよりほかに道がないであろう。 人間も何度同じ災害に会っても決し・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・けれども午過には日の光が暖く、私は乳母や母上と共に縁側の日向に出て見た時、狐捜しの大騒ぎのあった時分とは、庭の様子が別世界のように変って居るのをば、不思議な程に心付いた。梅の樹、碧梧の梢が枝ばかりになり、芙蓉や萩や頭や、秋草の茂りはすっかり・・・ 永井荷風 「狐」
・・・を破門したのだから大騒ぎだ。或る絵画展覧会に「トルストイ」の肖像が出ているとその前に花が山をなす、それから皆が相談して「トルストイ」に何か進物をしようなんかんて「トルストイ」連は焼気になって政府に面当をしているという通信だ。面白い。そうこう・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 日本では大騒ぎになった。――尤も、船会社と、船会社から頼まれた海軍だけだったが―― やがて、彼女が、駆逐艦に発見された時、船の中には、「これじゃ船が動く道理がない」と、船会社の社長が言った半馬鹿、半狂人の船長と、木乃伊のような・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・「御内所じゃ大騒ぎですよ。裏の撥橋が下りてて、裏口が開けてあッたんですッて」「え、そうかねえ。まア」 小万は驚きながらふッと気がつき、先刻吉里が置いて行ッた手紙の紙包みを、まだしまわず床の間に上げておいたのを、包みを開け捻紙を解・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・ それからりすは、夕方までに鈴蘭の実をたくさん集めて、大騒ぎをしてホモイのうちへ運びました。 おっかさんが、その騒ぎにびっくりして出て見て言いました。 「おや、どうしたの、りすさん」 ホモイが横から口を出して、 「おっか・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・ 桃龍が云いながら章子をつらまえ、着ている褞袍をむきかけた。「これ! 怪体なことせんとき」 章子はあわてて胸元を押えた。「ふあ! 様子してはる――」 大騒ぎで褞袍を脱がせ、それを自分が羽織ったなりで里栄は今まで着ていた長・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・群集は今しも売買に上気て大騒ぎをやっている。牝牛を買いたく思う百姓は去って見たり来て見たり、容易に決心する事ができないで、絶えず欺されはしないかと惑いつ懼れつ、売り手の目ばかりながめてはそいつのごまかしと家畜のいかさまとを見いだそうとしてい・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・それから大騒ぎになって、近所の医者に見て貰ったが、嵌めてはくれなかった。このままで直らなかったらどうしようというので、息子よりはお上さんが心配して、とうとう寐られなかったというのである。「どうだね」 と、翁は微笑みながら、若い学士の・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・「昨晩私のそばにいた貴婦人がひとり急に痙攣ちゃって、大騒ぎでしたの。そのかたも喜劇を演りにペテルスブルグへいらっしゃるんですって。デュウゼとかって名前でしたよ。ご存じでいらっしゃいますか。」そういってその娘の指さす方を見ると、うなだれた暗い・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫