・・・村上の御門第七の王子、二品中務親王、六代の後胤、仁和寺の法印寛雅が子、京極の源大納言雅俊卿の孫に生れたのは、こう云う俊寛一人じゃが、天が下には千の俊寛、万の俊寛、十万の俊寛、百億の俊寛が流されているぞ。――」 俊寛様はこうおっしゃると、・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・いや寧ろ「天が下のいろごのみ」と云う、Dandy の階級に属するような、生活さえもつづけている。が、不思議にも、そう云う生活のあい間には、必ずひとり法華経を読誦する。しかも阿闍梨自身は、少しもそれを矛盾だと思っていないらしい。 現に今日・・・ 芥川竜之介 「道祖問答」
・・・ 神将 我々は天が下の陰陽師、安倍の晴明の加持により、小町を守護する三十番神じゃ。 使 三十番神! あなたがたはあの嘘つきを、――あの男たらしを守護するのですか? 神将 黙れ! か弱い女をいじめるばかりか、悪名を着せるとは怪しか・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・昔はあの猿沢池にも、竜が棲んで居ったと見えるな。何、昔もいたかどうか分らぬ。いや、昔は棲んで居ったに相違あるまい。昔は天が下の人間も皆心から水底には竜が住むと思うて居った。さすれば竜もおのずから天地の間に飛行して、神のごとく折々は不思議な姿・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・もし悪魔にして、汝ら沙門の思うが如く、極悪兇猛の鬼物ならんか、われら天が下を二つに分って、汝が DS と共に治めんのみ。それ光あれば、必ず暗あり。DS の昼と悪魔の夜と交々この世を統べん事、あるべからずとは云い難し。されどわれら悪魔の族はそ・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・が、俺たちの為す処は、退いて見ると、如法これ下女下男の所為だ。天が下に何と烏ともあろうものが、大分権式を落すわけだな。二の烏 獅子、虎、豹、地を走る獣。空を飛ぶ仲間では、鷲、鷹、みさごぐらいなものか、餌食を掴んで容色の可いのは。……熊な・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・この事実は人知れず天が下にて行なわれし厳かなる事実なり。 いかなる言葉もてもこれを言い消すことあたわず、大空の星の隕ちたるがごとし、二郎はその理由のいかんを見ず、ただ光の失せぬるを悲しむ。げにこの悲しみや深し。 友の交わりを続けてよ・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・明智光秀も信長を殺す前には愛宕へ詣って、そして「時は今天が下知る五月かな」というを発句に連歌を奉っている位だ。飯綱山も愛宕山に負けはしない。武田信玄は飯綱山に祈願をさせている。上杉謙信がそれを見て嘲笑って、信玄、弓箭では意をば得ぬより権現の・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ついに貴重な紙を、どっさり汚して印刷され、私の愚作は天が下かくれも無きものとして店頭にさらされる。批評家は之を読んで嘲笑し、読者は呆れる。愚作家その襤褸の上に、更に一篇の醜作を附加し得た、というわけである。へまより出でて、へまに入るとは、ま・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・やはり天が下に新しいものは一つもないと思ってひとりで感心して帰って来たのであった。 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
出典:青空文庫