・・・古人が女子を床の下に臥さしめて男天女地の差別を示したるは古人の発意にして、其意は以て人間万世の法とするに足らず。古人も今人も共に社会の人にして、古今おの/\其時勢あり。我輩は不文なる上世の一例に心酔して今日の事を断ぜんとする者に非ず。畢竟す・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・をかたに天女を妻とした伯龍が、女の天人性に悩まされて、三ヵ月の契約をこちらから辞そうとしたら「天に偽りなきものを」と居つづけられて、つよい神経衰弱に陥ったという物語は、何と私たちを笑わせ、そこにある一つの実際を肯かせるだろう。 しかしな・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・レオナルド・ダ・ヴィンチは、聖母でもなければ天女でもない人間の女性像モナリザを描いた。このジョコンダの微笑は、ながく見つめていると人のこころをもの狂わしくするような内面の緊張した情感をたたえている。じっとおさえて、その体とともにレオナルドと・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 永瀬清子氏の『諸国の天女』は、私という文字で、一人の女の心をうたっている時でも、そのわたしという響のなかに、何とはなしどっさりの女の旺な気配が動いていて、『静かなる愛』とは実につよい対照をなす美と生活力とを表現しているのは感興をひかれ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・ その後は、境地がなごんで「天女」をかいたといううつりは何を動機としているのだろう。「思いつめるということが、よい方面に向えば勢い熱情となり立派な仕事をなしとげるのですが、一つあやまてば、人をのろう怨霊の化身となる――女の一念も・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
出典:青空文庫