・・・ それは天意への絶対尊信と、その奉行のための使命の自覚と、同時代への関心と、祖国の愛護と、共存大衆への本能的悲愍につき動かされて、やむにやまれなかったのである。 同時代への関心を持たぬ普遍妥当の真理の把持者は落ち着いていられる。民族・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・いわんや、芸の上の進歩とか、大飛躍とかいうものは、ほとんど製作者自身には考えられぬくらいのおそろしいもので、それこそ天意を待つより他に仕方のないものだ。紙一重のわずかな進歩だって、どうして、どうして。自分では絶えず工夫して進んでいるつもりで・・・ 太宰治 「炎天汗談」
・・・あとは天意におまかせするばかりなのだ。 つい先日も私は、叔母から長い手紙をもらって、それに対して、次のような返事を出した。その文面は、そのまんま或る新聞の文芸欄に発表せられた。 ――叔母さん。けさほどは、長いお手紙をいただきました。・・・ 太宰治 「新郎」
・・・吹出物だけは、ほんとうに、ふだんの用心で防ぐことができない、何かしら天意に依るもののように思われます。天の悪意を感じます。五年ぶりに帰朝する御主人をお迎えにいそいそ横浜の埠頭、胸おどらせて待っているうちにみるみる顔のだいじなところに紫色の腫・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・殊にこの大祭に於て、多少の愉快なる刺戟を吾人が所有するということは、最天意のある所である。多少の愉快なる刺戟とは何であるか、これプログラム中にある異教及異派の諸氏の論難である。是等諸氏はみな信者諸氏と同じく、各自の主義主張の為に、世界各地よ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫