・・・で率直に言放すのがタダ者ならず見えたので、イツモは十日も二十日も捨置くのを、何となく気に掛ってその晩、ドウセ物にはなるまいと内心馬鹿にしながらも二、三枚めくると、ノッケから読者を旋風に巻込むような奇想天来に有繋の翁も磁石に吸寄せられる鉄のよ・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・』アグリパイナの必死の抗議の声は、天来のそれの如く厳粛に響き渡る。『ドミチウスは、あなたのものでない。また、私のものでもございません。ドミチウスは、神の子です。ドミチウスは、美しい子です。ドミチウスは、ロオマの子です。ドミチウスを殺しては、・・・ 太宰治 「古典風」
・・・すると先生は天来の滑稽を不用意に感得したように憚りなく笑い出した。そうしてこれは希臘の詩だと答えられた。英国の表現に、珍紛漢の事を、それは希臘語さというのがある。希臘語は彼地でもそれ位六ずかしい物にしてあるのだろう。高等学校生徒の余などに解・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・「失業と多産のためにほとんど飢餓にひんしているこの階級の親たちにとっては全く天来の福音である」と新聞の記事はかきたてている。 プロレタリアートの姉妹たち! われわれはこの記事から、プロレタリアの女として、どんな「天来の福音」を感じる・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・ 勘は天来のものではなくて、人間の努力、反復、鍛錬の結果が蓄積して、複合的な直覚が特定の範囲で発動し、肉体の動きまでを支配する、そういう意志的な要素を底流とした心理であるから、勘の内容は、反復され、努力されることの質に応じて具体的に相異・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
出典:青空文庫