・・・とりなりの乱れた容子が、長刀に使ったか、太刀か、刀か、舞台で立廻りをして、引込んで来たもののように見えた。 ところが、目皺を寄せ、頬を刻んで、妙に眩しそうな顔をして、「おや、師匠とおいでなすったね、おとぼけでないよ。」 とのっけ・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・で、般若は一挺の斧を提げ、天狗は注連結いたる半弓に矢を取添え、狐は腰に一口の太刀を佩く。 中に荒縄の太いので、笈摺めかいて、灯した角行燈を荷ったのは天狗である。が、これは、勇しき男の獅子舞、媚かしき女の祇園囃子などに斉しく、特に夜に入っ・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・しかし、お小姓に、太刀のように鉄砲を持たしていれば、大将様だ。大方、魔ものか、変化にでも挨拶に行くのだろう、と言うんです。 魔ものだの、変化だのに、挨拶は変だ、と思ったが、あとで気がつくと、女連は、うわさのある怪しいことに、恐しく怯えて・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 慰謝金を少くも千円と見こんで、これでんねんと差し出した品を見ると、系図一巻と太刀一振であった。ある戦国時代の城主の血をかすかに引いている金助の立派な家柄がそれでわかるのだったが、はじめて見る品であった。金助からさような家柄についてつい・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ 将校は、大刀のあびせようがなかった。将校は老人の手や顔に包丁で切ったような小さい傷をつけるのがいやになった。大刀の斬れあじをためすためにやってみたのだ。だが、そいつがあまりに斬れなかった。「えゝい、仕様がない。このまゝ埋めてしまえ・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・それらの者はこの六月の末という暑気に重い甲冑を着て、矢叫、太刀音、陣鐘、太鼓の修羅の衢に汗を流し血を流して、追いつ返しつしているのであった。政元はそれらの上に念を馳せるでもない、ただもう行法が楽しいのである。碁を打つ者は五目勝った十目勝った・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・に付けて「身ほそき太刀のそるかたを見よ」とする。この付け方を「打てば響くごとし」と評してあるが、試みに映画の一場面にこの二つのショットを継起せしめたと想像すれば、その観客に与える印象はおそらく打てば響くがごとくであるに相違ない。これをたとえ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・そうしてまた、あれだけ大勢があれだけ多数の大刀を振廻わして、そうして誰も怪我をしないようにするという芸術はおそらく世界にユニークなものであろう。そう思って見ているとあれは実に面白い見ものである。全く感嘆に値いするものである。 土佐の田舎・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・吾がうちし太刀先は巨人の盾を斜に斫って戞と鳴るのみ。……」ウィリアムは急に眼を転じて盾の方を見る。彼の四世の祖が打ち込んだ刀痕は歴然と残っている。ウィリアムは又読み続ける。「われ巨人を切る事三度、三度目にわが太刀は鍔元より三つに折れて巨人の・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・たまには太刀を納めたのもある。 鳥居を潜ると杉の梢でいつでも梟が鳴いている。そうして、冷飯草履の音がぴちゃぴちゃする。それが拝殿の前でやむと、母はまず鈴を鳴らしておいて、すぐにしゃがんで柏手を打つ。たいていはこの時梟が急に鳴かなくなる。・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
出典:青空文庫