・・・「人間失格」という題にするつもりである。 あと、もう書きたくなくなった。けれども、私は書かなければならぬ。「新潮」のNさんには、これまでも、いろいろと迷惑をお掛けしている。やぶれかぶれで、こんな言葉が、ふいと浮んだ。「私にも、陋巷の聖母・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・すべて、いまは不吉な敵国の言葉になったが、パラダイス・ロストをもじって、まあ「人間失格」とでもいうような気持でそんな題をつけたのであって、その日記形式の小説の十一月一日のところに左のような文章がある。実朝をわすれず。伊豆・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・生あるもの、すべて世の中になくてかなわぬ重要の歯車、人を非難し、その人の尊さ、かれのわびしさ、理解できぬとあれば、作家、みごとに失格である。この世に無用の長物ひとつもなし。蘭童あるが故に、一女優のひとすじの愛あらわれ、菊池寛の海容の人情讃え・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・人間失格、あたりまえのことである。 そう思って、しかめつらをして机のまえに坐るのであるが、さて、何もしない。頬杖ついて、ぼんやりしている。別段、深遠のことがらを考えているわけではない。なまけ者の空想ほど、ばかばかしく途方もないものはない・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・ その弁護士さんのようにものわかりよい親があったとして、その娘さんが廃嫡されれば戸主ではなくなるのだから、戸主としてもし与えられる何かの権利があれば、社会的な性質のそれを先ず失うこと、我から失格して、妻の幸福を守らなければならないという・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
出典:青空文庫