・・・――その唐物屋の飾り窓には、麦藁帽や籐の杖が奇抜な組合せを見せた間に、もう派手な海水着が人間のように突立っていた。 洋一は唐物屋の前まで来ると、飾り窓を後に佇みながら、大通りを通る人や車に、苛立たしい視線を配り始めた。が、しばらくそうし・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・そこで咄嗟に、戦争に関係した奇抜な逸話を予想しながら、その紙面へ眼をやると、果してそこには、日本の新聞口調に直すとこんな記事が、四角な字ばかりで物々しく掲げてあった。 ――街の剃頭店主人、何小二なる者は、日清戦争に出征して、屡々勲功を顕・・・ 芥川竜之介 「首が落ちた話」
・・・と訊いたという奇抜な逸事を残したほどの無風流漢であった。随って商売上武家と交渉するには多才多芸な椿岳の斡旋を必要としたので、八面玲瓏の椿岳の才機は伊藤を助けて算盤玉以上に伊藤を儲けさしたのである。 伊藤八兵衛の成功は幕末に頂巓に達し、江・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・私はどんな醜い女とでも喜んで歩くのだが、どんな美しい女でもその女が人眼に立つ奇抜な身装をしている時は辟易するのがつねであった。なるべく彼女と離れて歩きながら心斎橋筋を抜け、川添いの電車通りを四ツ橋まで歩き、電気科学館の七階にある天文館のバネ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 中倉先生は大の反対論者で、こういう奇抜な事を言った事がある。「モシできる事なら、大理石の塊のまん中に、半人半獣の二人がかみ合っているところを彫ってみたい、塊の外面にそのからみ合った手を現わして。という次第は、彼ら争闘を続けている限・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・というだろう、東京にも明治頃までは、下駄の形の称に外法というのがあった。竹斎だか何だったか徳川初期の草子にも外法あたまというはあり、「外法の下り坂」という奇抜な諺もあるが、福禄寿のような頭では下り坂は妙に早かろう。 流布本太平記巻三十六・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・犬が結局窓の日蔽幕に巻き込まれてくるくる回る、そうなると奇抜ではあるがいっこうにおかしくない。それはもう真実でないからである。 漫画の主人公のねずみやうさぎやかえるなどは顔だけはそういう動物らしく描いてあるが、する事は人間のすることを少・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ずいぶん奇抜な句が飛び出して愉快であったが、そのときの先生の句に「つまずくや富士を向こうに蕎麦の花」というのがあったことを思い出す。いかにも十分十句のスピードの余勢を示した句で当時も笑ったが今思い出してもおかしくおもしろい。しかしこんな句に・・・ 寺田寅彦 「思い出草」
・・・そうして、若い娘と若い男二人がその奇抜な新宅の設備にかかっている間に、年老った方の男一人は客車の屋根の片端に坐り込んで手風琴を鳴らしながら呑気そうな歌を唄う。ところがその男のよく飼い馴らしたと見える鴉が一羽この男の右の片膝に乗って大人しくす・・・ 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
・・・故日下部博士が昔ある学会で文明と地震との関係を論じたあの奇抜な所説を想い出させられた。高松という処の村はずれにある或る神社で、社前の鳥居の一本の石柱は他所のと同じく東の方へ倒れているのに他の一本は全く別の向きに倒れているので、どうも可笑しい・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
出典:青空文庫