・・・の縫いぐるみの牛になって、大広間へ罷出で、馬には狐だから、牛に狸が乗った、滑稽の果は、縫ぐるみを崩すと、幇間同士が血のしたたるビフテキを捧げて出た、獅子の口へ、身を牲にして奉った、という生命を賭した、奉仕である。(――同町内というではな・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 唯今、七彩五色の花御堂に香水を奉仕した、この三十歳の、竜女の、深甚微妙なる聴問には弱った。要品を読誦する程度の智識では、説教も済度も覚束ない。「いずれ、それは……その、如是我聞という処ですがね。と時に、見附を出て、美佐古はいかがで・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ 徒らに、笑わせたり、面白がらせたりすることを目的とする者は、芸術への奉仕でなく、所謂、職業話術家のなすことであります。自分の書いたものが、どういう階級の子供達に読まれるか、恐らく、金持の家の子供達にも貧乏な家の子供にも読まれることゝ思・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・そこに深い社会奉仕の尊さが潜んでいると思う。 大学の教授たちが自分の専門に没頭して、只だそれを伝えると云うような事以外に、小学校の先生には更に教うる生徒に対して深い愛情がなければならぬ。 然し乍ら私は現在の小学校の先生方が皆かくの如・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・それは、ちょうど真理に奉仕する殉教者のように、また深い信仰を有する人が神について惑わないように、刹那まで安心して微笑んでいるでありましょう。 かくて太平和の家庭にあっては、命あるものは、みんな同情し合うであろう。ストーヴにあたっている猫・・・ 小川未明 「民衆芸術の精神」
・・・が、それよりも、「――ひとつ社会奉仕をしてみようと思うんですよ」 と、いけ酒蛙酒蛙と言ったのには、一層あきれてしまった。 何が社会奉仕なもんか。いってみれば、施灸巡業で一儲けしようというだけの話じゃないか。一里八銭の俥よりも、三・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ すなわち学校、孤児院の経営、雑誌の発行、あるいは社会運動、国民運動への献身、文学的精進、宗教的奉仕等をともにするのである。二つ夫婦そらうてひのきしんこれがだいいちものだねや これは天理教祖みき子の数え歌だ。子を・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・正義をもって社会悪を克服するという倫理的な根拠なくして、単なる物的必然力によって、人間は犠牲的奉仕にまで感奮することは出来るものではない。 倫理思想は内側から社会を動かす原動力である。そして倫理学はその実践への機を含んでしかも、直接に発・・・ 倉田百三 「学生と教養」
一 女性と信仰 男子は傷をこしらえることで人間の文明に貢献するけれども、婦人はもっと高尚なことで、すなわち傷をくくることで社会の進歩に奉仕するといった有名な哲人がある。この人間の文化の傷を繃帯するということ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・適当の収入さえあれば、夫への心をこめた奉仕と、子どもの懇ろなる養育と、家庭内の労働と団欒とを欲する婦人が生計の不足のためにやむなく子供を託児所にあずけて、夫とともに家庭を留守にして働くのである。婦人には月々の生理週間と妊娠と分娩後の静養と哺・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
出典:青空文庫