・・・コイツ面白いと、恭やしく五厘を奉書に包んで頼みに来る洒落者もあった。椿岳は喜んで受けて五厘の潤筆料のため絵具代を損するを何とも思わなかった。 尤もその頃は今のような途方もない画料を払うものはなかった。随って相場をする根性で描く画家も、株・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ところでこの男がまた真剣白刃取りを奉書の紙一枚で遣付けようという男だったから、これは怪しからん、模本贋物を御渡しになるとは、と真正面からこちらの理屈の木刀を揮って先方の毒悪の真剣と切結ぶような不利なことをする者ではなかった。何でもない顔をし・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ やがて女は何程か知れぬが相当の金銀を奉書を敷いた塗三宝に載せて持て来て男の前に置き、「私軽忽より誤って御足を留め、まことに恐れ入りました。些少にはござりますれど、御用を御欠かせ申しましたる御勘弁料差上げ申しまする。何卒御納め下され・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 私は、千代紙と緋縮緬と糸と鋏と奉書を出しながら云った。器用な手つきをして紙を切ってさして居たかんざしの銀の足で、おけいちゃんはしわを作った。それに綿を入れてくくって唐人まげの根元に緋縮緬をかけてはでな色の着物をきせて、帯をむすんでおひ・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・ 竜池は祝儀の金を奉書に裹み、水引を掛けて、大三方に堆く積み上げて出させた。 竜池は涓滴の量だになかった。杯は手に取っても、飲むまねをするに過ぎなかった。また未だかつて妓楼に宿泊したことがなかった。 為永春水はまだ三鷺と云い、楚・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫