・・・そのような判断そのもののうちにわたしたちの人間的、社会的自我の課題、その自主性と発展の契機がひそんでいる。「わたしたちは、やっと青春をとり戻したばかりだ。この上、戦争は欲しない。」若い人々は、まず基本的命題としてこの自主的発言をした上で・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・とただし書を添えながら、元来友情は、お互が対等であって互に尊敬し合うことのできる矜持ということが重要な契機であるから、奴隷や暴君が真の友情をもち得ないということの強調としていられるのであった。 今の時代の生活の感情のなかに受けとって味わ・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・といわれたことを契機に、猛然と自分のかけられてきた師範学校的世界観の魔睡を批判しはじめる。佐田の煩悶がかくして始る。佐田は神経的に正義派的に、彼の認識の中で一般化されている児童の「意欲をもたぬ幼年期の純真さ、無邪気さ」、創意性などを計量し、・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・それからの脱出として、既成の作家たちは、まじめに自分の人および芸術家としてのよりどころを、なにか新らしい力づよい情熱の上に発見しようとし、戦争をその契機としてつかもうとし、なにか新らしい文学ジャンルの開拓によって、たとえば報道文学、国民文学・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ ところで、この拡大中央委員会を契機として、作家同盟は、婦人委員会の活動について一つの大きい欠点を発見した。拡大中央委員会に向ってなされた各地方支部の文学的組織活動の報告中に、各地方の婦人大衆に対する対策が全然とりあげられていなかったと・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・スーザンは、その展覧会を契機として、いろいろな人のいろいろな評言から、自分の芸術がまだ自分のつたえたいと思うものをそれなり十分観るものにつたえるだけ完成していないことをも学んだのであった。彫刻をしてゆく過程に自分が深い深いよろこびを感じてい・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・辺を仄めかしながら、所謂時の人々とその人々との会話の断片を捉えて、何か具体的めいた、重大な国家の事情や裏面に精通した人のように身振りして語っているのだが、よく読んでみれば、モーロアは歴史の厳粛な推移の契機には何一つ迫っていない。フランスの敗・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・歴史の現実のそういう本質の契機にふれようと努力しないで、モーロアはさも自分が国家の機密に通暁している人物のように、アメリカというよその客間から客間とまわって、時代的ゴシップを喋っているに過ぎない。そのことで、彼自らが要するに、醜聞とともに書・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・勿論、直接の感覚としては面白さを求めるとも見えるが、面白さの要素は心理的に綜合的なものであり、探偵小説、怪奇小説の類でさえ書かれている世界のリアリティーは、面白くない面白いを決定する重大な契機となっている。 面白さが読者大衆から要求され・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・この段階は経過したものとして、今日作家が自身の成長としての変りを希うとき、自身のうちにどんな内的な契機がつかまれて行ったらいいのだろうか。 十一月の文芸時評で、平野謙氏が、日本の自然主義以来の文学伝統の分析からこの点にふれ、作家が何によ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
出典:青空文庫