一 白襷隊 明治三十七年十一月二十六日の未明だった。第×師団第×聯隊の白襷隊は、松樹山の補備砲台を奪取するために、九十三高地の北麓を出発した。 路は山陰に沿うていたから、隊形も今日は特別に、四列側面の行・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・論に勝っても鼎を取られては詰らぬと気のついた廷珸は、スキを見て鼎を奪取ろうとしたが、耳をしっかり持っていたのだったから、巧くは奪えなかった。耳は折れる、鼎は地に墜ちる。カチャンという音一ツで、千万金にもと思っていたものは粉砕してしまった。ハ・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・そして、こんにち、公団の腐敗その他、特権に必ずつきまとっている不正な利得、人民の富の奪取を、どうしようもない政治の無能の反映でもある。 文学の面でも、最近、明治からの現代古典を体系的に見直してゆこうとする一つの傾向があらわれている。・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・朝五時に起きて午前中創作に没頭するという学ぶべき習慣も奪取してきたという話である。「青年」「乃木大将」その他は二年間の読書の成果なのであるが、林の作品を批判するにつれて、一つの強い憤怒が湧いてきた。それは専制国日本の刑務所で実行している読書・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
出典:青空文庫