・・・ かく消極的に活力を節約しようとする奮闘に対して一方ではまた積極的に活力を任意随所に消耗しようという精神がまた開化の一半を組み立てている。その発現の方法もまた世が進めば進むほど複雑になるのは当然であるが、これをごく約めてどんな方面に現わ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・って見る、にやにや笑って行くものがある、向うの樫の木の下に乳母さんが小供をつれてロハ台に腰をかけてさっきからしきりに感服して見ている、何を感服しているのか分らない、おおかた流汗淋漓大童となって自転車と奮闘しつつある健気な様子に見とれているの・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・あるときはこの自覚のために驕慢の念を起して、当面の務を怠ったり未来の計を忘れて、落ち付いている割に意気地がなくなる恐れはあるが、成上りものの一生懸命に奮闘する時のように、齷齪とこせつく必要なく鷹揚自若と衆人環視の裡に立って世に処する事の出来・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・一層奮闘する事が出来るようになるので、私は、奮闘さえすれば何となく生き甲斐があるような心持がするんだ。 明治三十六年の七月、日露戦争が始まると云うので私は日本に帰って、今の朝日新聞社に入社した。そして奉公として「其面影」や「平凡」なぞを・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・著者は階級的な社会発展とその文学理論の要石をつよくしっかり据えようと奮闘している。 新鮮な階級的な知性と実践的な生の脈うちとで鳴っていた「敗北の文学」「過渡期の道標」の調子は、そのメロディーを失って熱いテムポにかわった。情感へのアッピー・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・生きる自由、学び、働き、良心に従って行動する自由とともに、人権の一つとして奪われた理性を回復しようとする日本の青春の奮闘がある。すべての人々に訴えるこれらのたたかいの成果におそれて、労働組合、言論機関、芸能人ばかりでなく、教授と学生への思想・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・四年前の八月十五日、ポツダム宣言を受諾した日本の政府が、誠意をもって破滅した日本の社会再建のために奮闘して来たならば、日本の民主化というものはもう少し社会感情としても実体をもってすすんで来たはずです。正直に、おだやかに働いて生きることを求め・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・それも世間がかれこれ云うだけなら、奮闘もしよう。第一父が承知しないだろうと思うのだ。」「いよいよ意気地がないねえ。そんな葛藤なら、僕はもう疾っくに解決してしまっている。僕は画かきになる時、親爺が見限ってしまって、現に高等遊民として取扱っ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・彼らが小さい一冊の本を書くためにも、その心血を絞り永年の刻苦と奮闘とを通り抜けなければならなかった事を思えば、私たちが生ぬるい心で少しも早く何事かを仕上げようなどと考えるのは、あまりにのんきで薄ッぺらすぎます。七 私は才能乏・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・故郷に遺せる老いたる母を慰めたいとて狂的に奮闘せる一青年は一念のために江知勝を超越しカフェーを超越す。菊地慎太郎は行く春の桜の花がチラと散る夕べ、亡父の墓を前にして、なつかしき母の胸より短刀のひらめきを見た。氷のごときその光は一瞬も菊地君の・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫