・・・ しかし、芸術の士にとって、虱の如く見る可きものは、独り女体の美しさばかりではない。 芥川竜之介 「女体」
・・・軍めく二人の嫁や花あやめ また、安永中の続奥の細道には――故将堂女体、甲冑を帯したる姿、いと珍し、古き像にて、彩色の剥げて、下地なる胡粉の白く見えたるは、卯の花や縅し毛ゆらり女武者 としるせりとぞ。この両様と・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・おお、姫神――明神は女体にまします――夕餉の料に、思召しがあるのであろう、とまことに、平和な、安易な、しかも極めて奇特な言が一致して、裸体の白い娘でない、御供を残して皈ったのである。 蒼ざめた小男は、第二の石段の上へ出た。沼の干たような・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・ 明神は女体におわす――爺さんがいうのであるが――それへ、詣ずるのは、石段の上の拝殿までだが、そこへ行くだけでさえ、清浄と斎戒がなければならぬ。奥の大巌の中腹に、祠が立って、恭しく斎き祭った神像は、大深秘で、軽々しく拝まれない――だから・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・――わけて、御女体、それはもう、端麗微妙の御面相でなければあいなりません。――……てまいただ、力、力が、腕、腕がござりましょうか、いかがかと存じまするのみでして、は、はい。」 樹島は、ただ一目散に停車場へ駈つけて、一いきに東京へ遁げかえ・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・彦少名命を祀るともいうし、神功皇后と応神天皇とを合祀するともいうし、あるいは女体であるともいうが、左に右く紀州の加太の淡島神社の分祠で、裁縫その他の女芸一切、女の病を加護する神さまには違いない。だが、この寺内の淡島堂は神仏混交の遺物であって・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 女はブッキラ棒に言って、「もう何も言わないよ。その代り今度来たら話す」「――もう来ないよ。その手に乗るもんか」 女は女体を振っておおげさに笑った。龍介は不快になった。そして女が酒を飲んだりしているのをだまって腰をかけたまま見下・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・ 嘉七は、女体の不思議を感じた。活動館を出たときには、日が暮れていた。かず枝は、すしを食いたい、と言いだした。嘉七は、すしは生臭くて好きでなかった。それに今夜は、も少し高価なものを食いたかった。「すしは、困るな。」「でも、あたし・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・お照も細く見えた、という結末の一句の若さに驚きました。女体が、すっと飛ぶようにあざやかに見えました。作者の愛情と祈念が、やはり読者を救っています。 私は貧乏なので、なんの空想も浮ばず、十年一日の如く、月末のやりくり、庭にトマトの苗を植え・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・いわんや、君、男体と女体とでは、そのひどい差はお話にならん。別の世界に住んでいるのだ。僕たちには青く見えるものが、女には赤く見えているのかも知れない。そうして、赤い色の事を青い色と称するのだと思い込んで澄まして、そのように言っているので、僕・・・ 太宰治 「女類」
出典:青空文庫