・・・殿上の名もない一女官がおぼつかない筆で書いた日記体のものでも、それが忠実な記録であるために実証的の価値があり同時にそこに文学としての価値を生じるものと思われる。 第二にはいろいろの物語小説の類である。その中に現われる人物が実際にあったと・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 明治十四年に十九歳であった岸田俊子が、三年の女官生活から一直線に自由党の政治運動に入って行った過程は、いかにもその時代の若々しく燃え立って、形の固定していなかった日本の社会情勢を語っていて、俊子の性格の烈しさの面白さばかりに止まらない・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・紫式部というのは、女官としての宮廷の名です。女流文学の隆盛期と云われた王朝時代、一般の婦人の社会的な地位は、不安で低いものでした。その中から、こういう小説を書いた。そして紫式部が書いた小説にはなかなか立派な描写があるし、同時に彼女の生きた時・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・小高き丘の上に、まばらに兵を、ザックセン、マイニンゲンのよつぎの君夫婦、ワイマル、ショオンベルヒの両公子、これにおもなる女官数人したがえり。ザックセン王宮の女官はみにくしという世の噂むなしからず、いずれも顔立ちよからぬに、人の世の春さえはや・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫