・・・楢山の女権論者――と云ったら、あるいは御聞き及びになった事がないものでもありますまい。当時相当な名声のあった楢山と云う代言人の細君で、盛に男女同権を主張した、とかく如何わしい風評が絶えた事のない女です。私はその楢山夫人が、黒の紋付の肩を張っ・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・かく口汚く罵るものの先生は何も新しい女権主義を根本から否定しているためではない。婦人参政権の問題なぞもむしろ当然の事としている位である。しかし人間は総じて男女の別なく、いかほど正しい当然な事でも、それをば正当なりと自分からは主張せずに出しゃ・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・近頃女権拡張論者と云ったようなものがむやみに狼藉をするように新聞などに見えていますが、あれはまあ例外です。例外にしては数が多過ぎると云われればそれまでですが、どうも例外と見るよりほかに仕方がないようです。嫁に行かれないとか、職業が見つからな・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ 人或は言わん、右に論ずる所、道理は則ち道理なれども、一方より見れば今日女権の拡張は恰も社会の秩序を紊乱するものにして遽に賛成するを得ずとて、躊躇する者もあらんかなれども、凡そ時弊を矯正するには社会に多少の波瀾なきを得ず。其波瀾を掛念と・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・あるいは婦人は今のままにして、男子の地位をして一層の下に就かしむれば、女権特に高しというべし。これ即ち我輩が独り男子を目的にして論鋒を差向けたる所以なり。 然るにここに支那学の古流に従って、女子のために特に定めたる教義あり。その義は諸書・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・の主観的女権尊崇の栄光を讚していられる。 私が感想を刺戟されたのは、この文章で山川菊栄ともある婦人が、問題を個人的な自分を中心としての身辺観察の中にだけ畳みこんでみずから怪しまれない点であった。柳原子氏の玉の井ハイキング記に連関してその・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ だからフランスの女権拡張運動というものはどういう状態にあるかということの説明になる。 けれどもソヴェトでは男も女もそういう意味のブルジョア的性別は、減っている。 何故かというと、労働において女は男の協力者であり、又家庭生活の中・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
・・・だからフランスの女権拡張運動というものはどういう状態にあるかということの説明になる。だけれどもソヴェトでは男も女もそういう意味のブルジョア的性別は、減っている。何故かというと、労働において女は男の協力者であり、また家庭生活の中でも第一小学校・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・「英吉利の婦人が選挙権を得ようとする運動にも同情するくらい女権論者である。」男のやることなら女がやってもかまわないとする人である。ヘッダ・ガブラーや人形の家の芝居を眺め「日本にもかかる思想がなくてはならぬと思ったくらいだ」。しかし、彼の現実・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・十八九歳だったこの才媛は、既に反動期に入った日本としての、女権拡張の立場に立って婦人問題を述べている。花圃の小説中最も愛らしく聰明な婦人と思われている女主人公は、日本の富国強兵の伴侶として、その内助者としての女性の生活を最も名誉あるものと結・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫