・・・それからは、見た目にも道わるで、無理に自動車を通した処で、歩行くより難儀らしいから下りたんですがね――饂飩酒場の女給も、女房さんらしいのも――その赤い一行は、さあ、何だか分らない、と言う。しかし、お小姓に、太刀のように鉄砲を持たしていれば、・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ので、時々目が眩んだ。ある日、手を挙げていた客の姿に気づかなかったと、運転手に撲られた。翌日、その運転手が通いつめていた新世界の「バー紅雀」の女給品子は豹一のものになった。むろん接吻はしたが、しかしそれだけに止まった。それ以上女の体に近づけ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・彼はラスプーチンのような顔をして、爪の垢を一杯ためながら下宿の主婦である中年女と彼自身の理論から出たらしいある種の情事関係を作ったり、怪しげな喫茶店の女給から小銭をまきあげたり、友達にたかったりするばかりか、授業料値下げすべしというビラをま・・・ 織田作之助 「髪」
・・・ 寺田の細君は本名の一代という名で交潤社の女給をしていた。交潤社は四条通と木屋町通の角にある地下室の酒場で、撮影所の連中や贅沢な学生達が行く、京都ではまず高級な酒場だったし、しかも一代はそこのナンバーワンだったから、寺田のような風采の上・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・のかかった五銭喫茶店へはいればしっくりと似合う彼が、そんな店へ行くのにはむろん理由がなくてはかなわぬ。女だ。「カスタニエン」の女給の幾子に、彼の表現に従えば「肩入れ」しているのである。 もう十日も通っているのだ。いや、通うというより入り・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・北野の博奕打の親分を旦那に持ったことがあり、またその時分抱主や遣手への義理で、日活の俳優を内緒の客にしたこともあると、意外な話を打ち明けたが、しかしその俳優の名を三人まで挙げている内に、もう静子の顔は女給が活動写真の噂をしている時の軽薄な調・・・ 織田作之助 「世相」
・・・という安カフェへ出掛けて、女給の手にさわり、「僕と共鳴せえへんか」そんな調子だったから、お辰はあれでは蝶子が可哀想やと種吉に言い言いしたが、種吉は「坊ん坊んやから当り前のこっちゃ」別に柳吉を非難もしなかった。どころか、「女房や子供捨てて二階・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ダンサー、女給、仲居、芸者等いわゆる玄人の女性は気をつけねばならぬ。ことに自分より年増の女は注意を要する。 男女交際と素人、玄人 日本では青年男女の交際の機会が非常に限られていることは不便なことだ。そのためにレデ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・してお店の土間の椅子席でお酒を飲むという事は無く、奥の六畳間で電気を暗くして大きい声を立てずに、こっそり酔っぱらうという仕組になっていまして、また、その年増女というのは、そのすこし前まで、新宿のバアで女給さんをしていたひとで、その女給時代に・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・いやいやそうに酒を噛みくだしつつ、私は美人の女給には眼もくれなかった。どこのカフェにも、色気に乏しい慾気ばかりの中年の女給がひとりばかりいるものであるが、私はそのような女給にだけ言葉をかけてやった。おもにその日の天候や物価について話し合った・・・ 太宰治 「逆行」
出典:青空文庫