・・・ 詐欺師や香具師の品玉やテクニックには『永代蔵』に狼の黒焼や閻魔鳥や便覧坊があり、対馬行の煙草の話では不正な輸出商の奸策を喝破しているなど現代と比べてもなかなか面白い。『胸算用』には「仕かけ山伏」が「祈り最中に御幣ゆるぎ出、ともし火かす・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・かわった市民社会がなかったということ、第二次大戦でこのように破滅するまでの日本の歴史に、わたしたちみんなが民主的に生きる生き方を知っていなかったということは、この四年の間に、特権階級の自己保存のための奸策を、公平な外国の人々がびっくりしてい・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・そういう今日の共感に交えてデスデモーナのオセロにたいする封建的な屈従と畏怖とが、大切な愛をおどおどとさせ、才覚とほんとうの正直さとを失わせ、一枚のハンカチーフを種にイヤゴーの奸策につけ入らせた。そのルネッサンス女性の暗愚さは、ソヴェトの若い・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ これは、富農と買占人の奸策が成功した結果であった。 前の年から、ソヴェト政府が累進税で富農の私有財産制への実際上の復帰を統制しはじめた。その復讐だ。 ソヴェト生産拡張五ヵ年計画は、複雑な農村社会主義化の実践へ根強い組織力で迫っ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 愛を失った事で或程度の苦味を嘗めた心は、人を計ろうとする奸策で汚され、其に成就した誇りで穢されなければならないのでございます。 其に比べれば、良人の受けた結果は、そういう性質を知らずに結婚した不明と、その策略を感じなかった事を賢く・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・は十九世紀において、ヨーロッパに出版業が企業として擡頭し始めた時代に、作者たちが、どんなにその営利業の本性をむき出した奸策と闘い、打算に抵抗し、頑強に作家として闘わなければならなかったかということを、暑くるしいほどに描き出している。 芥・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・そして、この奸策を白日のもとに明かにしたのは、もちろんポベドノスツェフではなく、足をすくわれた後、立ち上ったロシアのマルキシストたちであった。 私は日本プロレタリア文学史の中でも、こんにちのさまざまな現象が、やはりそのような視角から明ら・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
出典:青空文庫