・・・の音のひっぱり方一つで、彼女たちが客に持っている好感の程度もしくは嫌悪の程度のニュアンスが出せるのと同様である。 しかし、それとも考えようによっては、京都弁そのものが結局豊富でない証拠で、彼女たちはただ教えられた数少い言葉を紋切型のよう・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・しかし女が、自分に好感をよせていることだけは、円みのあるおだやかな調子ですぐ分った。彼は追っかけて来ていいことをしたと思った。 帰りかけて、うしろへ振り向くと、ガーリヤは、雪の道を辷りながら、丘を登っていた。「おい、いいかげんにしろ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・放送局の無邪気さに好感を持った。私の家では、主人がひどくラジオをきらいなので、いちども設備した事はない。また私も、いままでは、そんなにラジオを欲しいと思った事は無かったのだが、でも、こんな時には、ラジオがあったらいいなあと思う。ニュウスをた・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・もわれらのような旧時代のものにはどうもあまり好感の持てないタイプである。しかし、とにかくこうした映画で日常教育されている日本現代の青年男女の趣味好尚は次第に変遷して行って結局われわれの想像できないような方向に推移するに相違ない。考えてみると・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・パリからロンドンへ渡ってそこで日本からの送金を受取るはずになっており、従ってパリ滞在中は財布の内圧が極度に低下していたので特に煙草の専売に好感を有ち損なったのであろう。マッチも高かったと思うが、それよりもマッチのフランス語を教わって来るのを・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・それでなくとも辰之助の母である道太の第一の姉には、お絹たちはあまり好感をもたれていなかったし、持ってもいなかった。それは辰之助が今は隣国で廓のお師匠さんをしている、お絹のすぐ次ぎの妹のお芳と関係していた時分からのことであった。二人のあいだに・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・主人の側として年期をふみ倒してゆく若い者に好感のもてないのは当然だと思う。しかし、いい事でないと知りつつそういう風に行動してゆく若い帰還兵の気分には、時代的なものがつよくあって、そのことのなかに何か今の若い者の哀れな不安や動揺もある。主人の・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・かったから、さも親しそうに監獄の生活について話せると云っておられるが、全文に微妙な神経質さ、嫌悪、その反動としての皮肉的語気が仄見えている、彼女の矢張り監獄は辛いところだという意見が正直で人間的で私に好感を与えた。それだからこそ、或る意味で・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・絵も描き、文章に達し、音楽も愛し、しかも音楽の演奏ぶりなどにはなかなか近親者に忘れがたい好感を与えるユーモアがあふれていたようである。日本の明治以来の興隆期の文化は、夏目漱石でその頂点に達し同時に漱石の芸術には、今日の日本を予想せしめる顕著・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・人生に対する娘さんのなだらかなその心持はいかにも好感がもてるのだけれど、そこには何となしもう一寸ひっかかって来るものが残されていて、そういう一つの女の才能が、娘さんの人生へのなだらかな態度と渾然一致したものとして専門的にまで成熟させられ切れ・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
出典:青空文庫