・・・とは如何なるものか、彼は過去において、如何なる歴史を持っているか、こう云う点に関しては、如上で、その大略を明にし得た事と思う。が、それを伝えるのみが、決して自分の目的ではない。自分は、この伝説的な人物に関して、嘗て自分が懐いていた二つの疑問・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・ 併し、如上の事だけに満足が出来なく、自己の存在を明にする唯一の意識、即ち感覚そのものに疑を挾む事も出来得るのである。只だ人生の保証として、又事実として自分の有して居る感覚に何程の力があるか、此れを考えた時に吾々は斯く思わずには居られな・・・ 小川未明 「絶望より生ずる文芸」
・・・文章を書く際には、少くとも常に如上の自覚に立つことを忽にしてはならない。 文章上の根本用意として、以上のことを述べて置く。二 読書と観察と思索 文章を作る上の用意として、われ/\の日常心がくべき三つの方法がある。それは読・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・』先夜ひそかに如上の文章を読みかえしてみて、おのが思念の風貌、十春秋、ほとんど変っていないことを知るに及んで呆然たり、いや、いや、十春秋一日の如く変らぬわが眉間の沈痛の色に、今更ながらうんざりしたのである。わが名は安易の敵、有頂天の小姑、あ・・・ 太宰治 「喝采」
・・・私は貴下が好きなので、如上の自分の喜びを頒つ意味と、若し秋田さんの話が貴下に初耳ならば、御仕事をなさる上にこの御知らせが幾分なりとも御役に立つのではないかと実はこの手紙を書きました。そうして、貴下の潔癖が私のこのやりかたを又怒られるのではな・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・普通に批評家がある作物を見て、不自然であるとか、そうでないとかいうのはすなわち如上の意味においてである。この場合の標準になるものは勿論単に心理学的なものの外に非科学的なものがむしろ大部分を占めているのは通例ではあるが、そうかと云って作者は、・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・それは如上の意味の感覚的印象批評である以上、如上の意味で分らないものには分らないのが当然のことである。なぜなら、それらの人々は感覚と云う言葉について不分明であったか若くは感覚について夫々の独断的解釈を解放することが不可能であったか、或いは私・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫