・・・○くだものの大小 くだものは培養の如何によって大きくもなり小さくもなるが、違う種類の菓物で大小を比較して見ると、准くだものではあるが、西瓜が一番大きいであろう。一番小さいのは榎実位で鬼貫の句にも「木にも似ずさても小さき榎実かな」とある。・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・世界史がかきかわり、日本も世界史的規模で新たになってゆくという現実のよりどころは、文化に即して云えば窮極のところ次の世代の創造の可能力如何にかかっているのが事実である。 携帯口糧のように整理された文化の遺産は、時にとって運ぶに便利であろ・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・想うにこの文を読むものは予に対って、汝は汝の分身たる鴎外の死んだのを見て、奈何の観を作すかと問うであろう。予はただ笑止に思うに過ぎぬ。予はただここに一いっしゅの香を拈ってこれを弔するに過ぎぬ。予にしてもし彼の偽の幸福のために、別方面の種々の・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・戦争というものの善悪如何にかかわらず祖国の滅亡することは耐えられることではなかった。そこへ出現して来た栖方の新武器は、聞いただけでも胸の躍ることである。それに何故また自分はその武器を手にした悪人のことなど考えるのだろうか。ひやりと一抹の不安・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫