・・・椿岳の画の妙味はその畸行と照応していよいよ妙味を深くする感がある。十一 画人椿岳椿岳の画才及び習画の動機 椿岳の実家たる川越の内田家には芸術の血が流れていたと見えて、椿岳の生家にもその本家にも画人があったそうだ。椿岳も児・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・の方が、いくらか下品にしろ、妙味があった。話の序でだから、この一部をそこへ挿むことにしよう。 ――もともと出鱈目と駄法螺をもって、信条としている彼の言ゆえ、信ずるに足りないが、その言うところによれば、彼の祖父は代々鎗一筋の家柄で、備前岡・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・骨董の佳い物おもしろい物の方が大判やダイヤモンドよりも佳くもあり面白くもあるから、金貨や兌換券で高慢税をウンと払って、釉の工合の妙味言うべからざる茶碗なり茶入なり、何によらず見処のある骨董を、好きならば手にして楽しむ方が、暢達した料簡という・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・そうして、そういうことが白昼烈日の下に行われ、しかもその下でなければ行われ難いところに妙味があるようである。しかしあまり度々こんな悪戯をやると警官に怪しまれるであろうが一度だけは大丈夫成功するであろうと思われる。それはとにかく、このヘリオト・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ 口調がよくてもいい歌とは限らず、口調が悪くてもそのために却って妙味のある歌もあるかも知れないが、歌の音楽的要素を無視しない限り口調の研究は一般の歌人にも無駄な事ではないであろうと思う。 以上は口調というちょっとつかまえ処のないよう・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・この一部が偶然にライオンの背景の中に出ているのも実写映画の妙味である。 蛮人の顔のクローズアップにはこの映画に限らず頭の上をはう蠅が写っている。この蠅がいわゆる画竜点睛の役目をつとめる。これを見ることによってわれわれは百度の気温と強烈な・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・実になんでもないことだが、あすこの前後の時間関係に説明し難い妙味がある。 女中が迎えに来て荷馬車で帰る途中で、よその家庭の幸福そうな人々を見ているうちににんじんの心がだんだんにいら立って来て、無茶苦茶に馬を引っぱたいて狂奔させる、あすこ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・には、少しもわざとらしさのない、すっきりとして気のきいた妙味がある。これは俳諧の場合と同様、ほとんど説明のできない種類の味である。たとえばアンナが窓から町をへだてた向こう側のジャンの窓をながめている。細めにあいた戸のすきから女の手が出る。ア・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・たときに、友だちの手前わざとふくれっ面をして見せたり、居間へ引っ込んでからあわててその手紙を読もうとしてめがねを落として割ったりする場面の彼一流の細かい芸は、臭みもあるかもしれないがやはりこの人らしい妙味はあるであろう。こういう点で細かいく・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・もっとも読者の頭の程度が著者の頭の程度の水準線よりはなはだしく低い場合には、その著作にはなんらの必然性も認められないであろうし、従ってなんらの妙味も味わわれずなんらの感激をも刺激されないであろう。しかしこれは文学的作品の場合についても同じこ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫