・・・しかし実際の科学の通俗的解説には、ややもするとほんとうの科学的興味は閑却されて、不妥当な譬喩やアナロジーの見当違いな興味が高調されやすいのは惜しい事である。そうなっては科学のほうは借りもので、結果はただ誤った知識と印象を伝えるばかりである。・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・北海道や朝鮮台湾は除外するとしても、たとえば南海道九州の自然と東北地方の自然とを一つに見て論ずることは、問題の種類によっては決して妥当であろうとは思われない。 こう考えて来ると、今度はまた「日本人」という言葉の内容がかなり空疎な散漫なも・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・これは普通字句の簡潔とか用語の選択の妥当性によるものと解釈されるようであるが、しかしそれよりも根本的なことは、書く事の内容の取捨選択について積まれた修業の効果によるのではないかと思われる。俳句を作る場合のおもなる仕事は不用なものをきり捨て切・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・そして、関係要素の数が多くて、それら相互の交渉が複雑であればあるほど、かえってこの方法の妥当性がよくなるという点である。 それで、この方法を真に有効ならしむるには、むしろあらゆる独断、偏見、臆説をも初めから排する事なく、なるべくちがった・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・あるいは新聞の存在を余儀なくし、新聞の内容を供給している現代文化そのものがこれらの原因になっていると言ったほうが妥当かもしれないが、それはいずれにしても、私はあらゆる日刊新聞を全廃する事によって、この世の中がもう少し住みごこちのいいものにな・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・少なくともそういう風に考える方が自然科学者の今日の立場としてむしろ妥当ではあるまいか。しかしこの疑問以上に立ち入る事は科学者の領域以外に踏み出すと思う。 こんな事を書いて公にしようというについて一つ考えなければならぬ事がある。すなわちか・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・浅学にて古代騎士の状況に通ぜず、従って叙事妥当を欠き、描景真相を失する所が多かろう、読者の誨を待つ。 遠き世の物語である。バロンと名乗るものの城を構え濠を環らして、人を屠り天に驕れる昔に帰れ。今代の話しではない。 何時の頃とも知・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・訳語あらず、今ここに掲げたる訳語はわれの創意に係る。訳語妥当ならざるは自らこれを知るといえども匆卒の際改竄するに由なし。君子幸に正を賜え。升 附記 正岡子規 「ベースボール」
・・・『くにのあゆみ』が日本の歴史学的な根拠もとぼしい皇紀をやめて、西暦に統一して書かれたことは、この将来の展望の上からも妥当である。〔一九四六年十月〕 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
・・・こと等が、諸方面から明かにされたのは、極めて妥当なことであったと云える。 今日の文学の諸経験 ――明日の文学への流れ―― さて、遂に我々の前には、将に暮れようとしている一九三七年の頁が現れ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫