・・・としたものであって、私は北氏の解釈の中に妥当を欠くと思われる幾ヵ所かを見出したのであった。日本のプロレタリア文学運動が新しい道を見出して発展しようとする困難な今日の段階にあって、蔵原その他の人々の過去における活動が、正しい歴史的展望に立って・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・そのような文化上の責任に対して、直接党にむすばれている学者・芸術家はまず自分たちの生きかたと仕事のやりかたそのもので、よりひろい一般的な可能が開かれ、その具体的で妥当な前進の方法が普遍化されるために骨を折らなければならないのだと思う。 ・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・ 併し、一国の文化、社会状態を観察した場合に、何時も、その裏面、消極的方面のみに注目するのは、果して妥当な態度でしょうか。 他人の話を聞き、他人に会い、その言動の裡から欠点ばかりを摘発するとしたら、結局自分は、今在るだけの自己を肯定・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・誰でも感じなければならないこの不調和は、主観のみの世界に閉じこもって、客観的な妥当性をまるで具備しない魂の燃え上るがまま、美点も欠点も自分の傾向の赴くままに従っていた彼女の上において、特に著しかったのである。 けれども、生れたばかりの赤・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・それらが、美化された労働・労働を眺めるもののロマンティシズムにたって謳われていることだけを云々するのは妥当を欠くであろう。藤村の歴史性、個人の境遇的な特質が、こういう風に積極的に人間と自然との結びつきを謳ってもなお歴然たるところに、未来の詩・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・このことは誰の眼にも妥当な法律の適用でないという感情をもたせた事実を語っている。前後二十余回に亙って宮本が病苦をおして「懇々」という形容詞をつけてよいほどスパイ摘発の意味と事実を論告したにもかかわらず、主文にあらわれた判決理由は十一年前宮本・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・これは妥当な註解であると思われる。然しながら、エンゲルスの手紙からの上記の引用を基礎として、エンゲルスは、「バルザックのリアリズムは革命的であると見ているのである」とやつぎ早に結論しているのは、理解に或る困難を引おこされる。ゾラのバルザック・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・その理由が現在の事情で客観的にも妥当性をもっていることは、教育委員会の選挙のとき来訪された方も理解されていました。 わたしの文学的活動の階級性についてもこまかく説明したとおりです。もとより、わたし一人の作品が民主主義文学の全部を代表す・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・ 今日ソ同盟の社会的業績に対する関心の中には、この極端な一つの実例が暗示しているような感情の方向をも包括していると見るのが妥当なのだろう。 ジャーナリズムのこの流行の潮にのって『文芸』八月号に勝野金政なる人物の「モスクワ」という一文・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・だが、そこに横たわった変化について、理論的形式をとってより明確な妥当性を与えなければならないとなると、これは少なからざる面倒なことである。先ず少くとも一応は客観的形式なるものの範疇を分析し、主観的形式の範疇分析をした結果の二形式の内容の交渉・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫