・・・兄弟の日、姉妹の月は輝くのに、人は輝く喜びを忘れている。雲雀は歌うのに人は歌わない。木は跳るのに人は跳らない。淋しい世の中だ」 また沈黙。「沈黙は貧しさほどに美しく尊い。あなたの沈黙を私は美酒のように飲んだ」 それから恐ろしいほ・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ただ南谿が記したる姉妹のこの木像のみ、外ヶ浜の沙漠の中にも緑水のあたり、花菖蒲、色のしたたるを覚ゆる事、巴、山吹のそれにも優れり。幼き頃より今もまた然り。 元禄の頃の陸奥千鳥には――木川村入口に鐙摺の岩あり、一騎立の細道なり、少し行きて・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・ 裾を曳いて帳場に起居の女房の、婀娜にたおやかなのがそっくりで、半四郎茶屋と呼ばれた引手茶屋の、大尽は常客だったが、芸妓は小浜屋の姉妹が一の贔屓だったから、その祝宴にも真先に取持った。……当日は伺候の芸者大勢がいずれも売出しの白粉の銘、・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 父の笑顔を見て満足した姉妹はやがてふたたび振り返りつつ、「お父さん、あら稲の穂が出てるよ。お父さん早い稲だねィ」「うん早稲だからだよ」「わせってなにお父さん」「早稲というのは早く穂の出る稲のことです」「あァちゃんお・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・小さな姉妹は下駄を取り替える。奈々子は満足の色を笑いにたたわして、雪子とお児の間にはさまりつつ雛を見る。つぶつぶ絣の単物に桃色のへこ帯を後ろにたれ、小さな膝を折ってその両膝に罪のない手を乗せてしゃがんでいる。雪子もお児もながら、いちばん小さ・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・かたわらには三人の美しい姉妹の娘らがいて、一人は大きなピアノを弾き、一人はマンドリンを鳴らし、一人はなにか高い声で歌っていました。それが歌い終わると、にぎやかな笑い声が起こって楽しそうにみんなが話をしています。じいさんは喜んで、笑い顔をして・・・ 小川未明 「青い時計台」
・・・ 少年は、両親や、姉妹に別れを告げました。「私は、旅をして、りっぱな音楽家になって帰ります。」 そういって、彼は、故郷を立ち出たのです。 それから、彼は、あちらの町、こちらの町とさまよって、バイオリンを探して歩きました。・・・ 小川未明 「海のかなた」
・・・ 両親をはやく失って、ほかに身寄りもなく、姉妹二人切りの淋しい暮しだった。姉の喜美子はどちらかといえば醜い器量に生れ、妹の道子は生れつき美しかった。妹の道子が女学校を卒業すると、喜美子は、「姉ちゃん、私ちょっとも女専みたいな上の学校、行・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・その出品は重に習字、図画、女子は仕立物等で、生徒の父兄姉妹は朝からぞろぞろと押かける。取りどりの評判。製作物を出した生徒は気が気でない、皆なそわそわして展覧室を出たり入ったりしている。自分もこの展覧会に出品するつもりで画紙一枚に大きく馬の頭・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・う節の巧みなる、その声は湿りて重き空気にさびしき波紋をえがき、絶えてまた起こり、起こりてまた絶えつ、周囲に人影見えず、二人はわれを見たれど意にとめざるごとく、一足歩みては唄い、かくて東屋の前に立ちぬ。姉妹共に色蒼ざめたれど楽しげなり。五月雨・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
出典:青空文庫