・・・その間顔は始終晴々としている。こういう時の木村の心持は一寸説明しにくい。この男は何をするにも子供の遊んでいるような気になってしている。同じ「遊び」にも面白いのもあれば、詰まらないのもある。こんな為事はその詰まらない遊びのように思っている分で・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・あそこにまた昔話の磁石の山が、舟の釘を吸い寄せるように、探険家の心を始終引き付けている地極の秘密が眠っている。我々は北極の閾の上に立って、地極というものの衝く息を顔に受けている。 この土地では夜も戸を締めない。乞食もいなければ、盗賊もい・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・お帰りのあとはいつも火の消たようですが、この時の事は、村のものの一年中の話の種になって、あの時はドウであった、コウであったのと雑談が、始終尽ない位でした。 僕はまだ少さかったけれど、あの時分の事はよく覚えていますよ。サアお出だというお先・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫