・・・この事はもっと委細に御話したいが時間がないから略して次に移ります。精神作用の第三は意志であります。この意志が文芸的にあらわれ得るためには、やはり前述の条件に従って、感覚的な物を通じて具体化されなくてはなりません。そうすると、感覚的な物は・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 運慶は見物人の評判には委細頓着なく鑿と槌を動かしている。いっこう振り向きもしない。高い所に乗って、仁王の顔の辺をしきりに彫り抜いて行く。 運慶は頭に小さい烏帽子のようなものを乗せて、素袍だか何だかわからない大きな袖を背中で括ってい・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・まずここへでも一つあたってみようと云う気になったから直ぐ手紙を書いて、宿料その他委細の事を報知して貰いたい、小生の身分はかくかく職業はかくかく、なるべく低廉でなるべく愉快な処に住みたいと勝手な事をかいてやった。 その夜の十時頃自分の室で・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・半之助も顔色青ざめ委細承知と早口に申し候。扨、小僧ますをとりて酒を入れ候に、酒は事もなく入り、遂に正味一斗と相成り候。山男大に笑いて二十五文を置き、瓢箪をさげて立ち去り候趣、材木町総代より御届け有之候。」 これを読んだとき、工芸学校の先・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・ 江戸っ子気の、他人のために女ながら出来るだけつくす主義の主婦は、自分に出来るだけの事は仕てやる気になって、とかく渋り勝ちな栄蔵の話に、言葉を足し足しして委細の事を云わせた。 結局は、栄蔵の顔を見た瞬間に直覚した通り金の融通で、毎月・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 日本人は女でさえ、軍国的であり好戦的であるという前に、わたしたち今日の日本の心は、これまで日本を支配した権力と人民との関係の委細をことこまかに理解しなければならない。そして、以上のような人民の社会生活とその感情の現実を見出したとき、わ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・しかしそれに就いて倅と往復を重ねた所で、自分の満足するだけの解決が出来そうにもなく、倅の帰って来る時期も近づいているので、それまで待っても好いと思って、返信は別に宗教問題なんぞに立ち入らずに、只委細承知した、どうぞなるべく穏健な思想を養って・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫