・・・その中に美しい孤独のシャロットの姫君が登場する。テニスンが物語っているとおり古い城の塔の中に孤独な生活をしているシャロットの姫はというとその古い蔦のからんだ塔の中で一面の大きな鏡の前で機を織って暮している。もしシャロットの姫を愛し、その孤独・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・「大阪では文金高島田、緋縮緬の着物に黒縮緬の帯という芝居の姫君のような濃艶な姿、また京都その他では黒白赤の三枚重ね」と土地柄を見て演出効果を考えていたことも相馬黒光女史の「明治初期の三女性」の中に語られている。明治十六年の秋京都で「女子大演・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・―― 筋は蹴球選手と掃除女である女子共産青年との変愛に非階級的なメシチャニンの若い男と女とがからむという組み合わせだが、本質的にこれが、王子、姫君、横恋慕をする髯面武士の配列とどう違うだろうか。王子が、ソヴェト製の黒と黄色い縞の運動襯衣・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・木の実のたべたさに親の寝た間に山を出で城の門まで来は来たが赤い木の実は見えもせず路は分らず日は暮れる長い廊下のまどの下何やら赤いものがある、そっとしのむで来て見ればこは姫君のかんざしか珊瑚の玉か恥かしや・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・妹の君は紫の君と云って今年ようやっと十六、もの事のよくわかった、姿のきれいなしっかりした情深い姫君で有る、「瓜を三角にきってもこうはちがいますまいものをネー」かげ口で有る。「先代をくわしく知るものはないがなんでも都の歌人でござったそうじ・・・ 宮本百合子 「錦木」
シルビア・シドニーが一人二役を見せどころとして主演した「三日姫君」という映画があった。外債募集のためアメリカへやって来た何とかいう世界地図にものっていないような弱小国の麗わしい姫が、ニューヨークへついて間もなくオタフク風に・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・私共は王様の姫君からよこされた使です。今度王女様が隣りの国の王子と御婚礼遊ばすについて、どうか、朝着る着物を、貴女に繍って貰いたいとおっしゃいます。夜のお召は、宝石という宝石を鏤めて降誕祭の晩のように立派に出来ました。朝のお召は、何とかして・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・これは光広卿が幽斎公和歌の御弟子にて、嫡子光賢卿に松向寺殿の御息女万姫君を妻せ居られ候故に候。さて景一光広卿を介して御当家御父子とも御心安く相成りおり候。田辺攻の時、関東に御出遊ばされ候三斎公は、景一が外戚の従弟たる森三右衛門を使に田辺へ差・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・ 天正十一年になって、遠からず小田原へ二女督姫君の輿入れがあるために、浜松の館の忙がしい中で、大阪に遷った羽柴家へ祝いの使が行くことになった。近習の甚五郎がお居間の次で聞いていると、石川与七郎数正が御前に出て、大阪への使を承っている。・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫