・・・のみならず、矢竹の墨が、ほたほたと太く、蓑の毛を羽にはいだような形を見ると、古俳諧にいわゆる――狸を威す篠張の弓である。 これもまた……面白い。「おともしましょう、望む処です。」 気競って言うまで、私はいい心持に酔っていた。・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・初の烏、遁れんとして威す真似して、かあかあ、と烏の声をなす。泣くがごとき女の声なり。紳士 こりゃ、地獄の門を背負って、空を飛ぶ真似をするか。(掴ひしぐがごとくにして突離す。初の烏、どうと地に座す。三羽の烏はわざとらしく吃驚の身振地を・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・お町の後から、外套氏は苦笑いをしながら、その蓮根問屋の土間へ追い続いて、「決して威す気で言ったんじゃあない。――はじめは蛇かと思って、ぞっとしたっけ。」 椎の樹婆叉の話を聞くうちに、ふと見ると、天井の車麩に搦んで、ちょろちょろと首と・・・ 泉鏡花 「古狢」
出典:青空文庫