・・・島のうら枯さえ見に行く人もないのに、秋の末の十二社、それはよし、もの好として差措いても、小山にはまだ令室のないこと、並びに今も来る途中、朋友なる給水工場の重役の宅で一盞すすめられて杯の遣取をする内に、娶るべき女房の身分に就いて、忠告と意見と・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・教師が媒酌人となるは勿論、教師自から生徒を娶る事すら不思議がられず、理想の細君の選択に女学校の教師となるものもあった。或る女学校では女生の婚約の夫が定まると、女生は未来の良人を朋友の集まりに紹介するを例とし、それから後は公々然と音信し往来す・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・この女後に思わぬ人を慕う事あり、娶る君に悔あらん。とひたすらに諫めしとぞ。聞きたる時の我に罪なければ思わぬ人の誰なるかは知るべくもなく打ち過ぎぬ。思わぬ人の誰なるかを知りたる時、天が下に数多く生れたるもののうちにて、この悲しき命に廻り合せた・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・是れ妻を娶るは子孫相続の為なれば也。然れども婦人の心正しく行儀能して妬心なくば、去ずとも同姓の子を養ふべし。或は妾に子あらば妻に子なくとも去に及ばず。三には淫乱なれば去る。四には悋気深ければ去る。五に癩病などの悪き疾あれば去る。六に多言にて・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・男子に二女を娶るの権あらば、婦人にも二夫を私するの理なかるべからず。試に問う、天下の男子、その妻君が別に一夫を愛し、一婦二夫、家におることあらば、主人よくこれを甘んじてその婦人に事るか。また『左伝』にその室を易うということあり。これは暫時細・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・是れ妻を娶るは子孫存続のためなれば也。然れども婦人の心正しく行儀能して妬心なくば去ずとも同姓の子を養うべし。或は妾に子あらば妻に子なくとも去に及ばず。三には淫乱なれば去る。四には悋気深ければ去る。五に癩病などの悪き病あらば去る。六に多言にて・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
出典:青空文庫