・・・――目の覚めるようだと申しましても派手ではありません。婀娜な中に、何となく寂しさのございます、二十六七のお年ごろで、高等な円髷でおいででございました。――御容子のいい、背のすらりとした、見立ての申し分のない、しかし奥様と申すには、どこか媚め・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ 乗合いは随分立籠んだが、どこかに、空席は、と思う目が、まず何より前に映ったのは、まだ前側から下りないで、横顔も襟も、すっきりと硝子戸越に透通る、運転手台の婀娜姿。 二 誰も知った通り、この三丁目、中橋などは・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・酒の廻りしため面に紅色さしたるが、一体醜からぬ上年齢も葉桜の匂無くなりしというまでならねば、女振り十段も先刻より上りて婀娜ッぽいいい年増なり。「そう悪く取っちゃあいけねエ。そんなら実の事を云おうか、実はナ。「アアどうするッてエの。・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・家家娉ヲ貯ヘ、戸戸婀娜ヲ養フ。紅楼翠閣。一簇ノ暖烟ヲ屯ス。妓院ノ数今七八十戸ニ下ラズト云フ。」 わたくしは先年坊間の一書肆に於て饒歌余譚と題した一冊の写本を獲たことがある。作者は苔城松子雁戯稿となせるのみで、何人なるやを詳にしない。然し・・・ 永井荷風 「上野」
出典:青空文庫